十一坂

 入船本通り入船陸橋のすぐ脇、北海油脂と入船会館の間に車一台通れるほどの幅しかない急な坂道がある。
 この坂を上り左右左と三回直角に曲がると我が家のマンションに到着する。車で登ると自動車教習所のクランクコースのような感じと想像していただけるとわかりやすいかも知れない。

 倅が幼稚園の頃、よくこの坂道を通り朝の散歩を行っていた。坂道の上は線路より高くなっていて、電車の通過がよく見える。入船会館上方の空き地では、近所の人たちが家庭菜園を楽しんでいる。

 坂を下りると真っ赤な末広稲荷の祠がある。
 西別院の小樽幼稚園に通っていた倅は、その末広稲荷の前で両手を合わせ「南無妙法蓮華経・・・」とお念仏を唱えだしたのだ。なんでお経を覚えているのと聞くと、お経じゃなくお念仏だと言い、小樽幼稚園ではみんなでお念仏を合唱すると教えてくれたのだ・・・。

 この小さな坂道にもちゃんと名前があり「十一坂」と呼ぶそうだ。
 明治の昔、現在の北海油脂のところに十一荒木酒造という造り酒屋があった。そして、この入船陸橋脇の小山のことを十一山と呼んだそうだ。必然的にこの坂道も「十一坂」となったというわけなのだ。

 手宮公園に上がる「励ましの坂」も、手宮富士を貫く「浄応寺の坂」も急ではあるが、この「十一坂」も距離は短いがなかなかの勾配がある。この坂道は近所の人しか通らないのであるが、坂の街小樽を体感する意味でも一度は上がっていただきたいと思う。

 小樽は早くから川の暗渠化が進んだ。国道5号線長橋の色内川、手宮仲通り(桜陽通り)の手宮仲川。そしてこの十一坂が交わる入船本通りの下にも入船川が流れている。

 鉄道開通時の入船陸橋の古い写真を見ると、真ん中に川が流れ両側に道路があるのが写っている。
 冬のソリ遊びで、十一坂を滑ってきた子どもたちが、入船川に勢い余って落ちてしまうことはよくあったと、広報おたるに連載された「おたる坂まち散歩」に記載されていた。

(斎藤仁)


※本記事の内容は2020年7月時点の情報に基づいたものです。