花も団子も

商大に入学して初めての春。札幌からの通学にも慣れてきた5月、でもこの日は旅行気分で小樽に向かう。

大学の講義には早すぎるJRに乗ったのは、桜を見るためだ。

普段は「そろそろ到着か」なんて思っている南小樽駅で降りる。駅を出るとすぐに見えたのは満開の桜。まるで温かく小樽に迎え入れてくれているかのような景色だった。

桜を満喫した後、小樽観光には外せない堺町通りを歩く。ガラス細工やオルゴールなど、小樽をぎゅっと詰め込んだようなお店たちを見て心を惹かれる。

気づけばかなりの時間歩いていてお腹が空いていたので、近くにあるCafé色内食堂へと向かった。
このカフェのある旧塚本商店は、近江出身の呉服太物商の店舗として1920年に建てられた歴史的建造物であるそうだ。建物を前にすると確かに、私がイメージする「カフェ」とは全く違った重厚な雰囲気が感じられる。

木製の階段で2階に上がると、そこにはアンティーク調の家具や小物が敷き詰められていた。
非日常の雰囲気に圧倒されて少し緊張していた私。席についてブラウンを基調とした店内に温かみを感じ、ふっと肩の力が抜ける。その瞬間、優雅なクラシック音楽が耳に入る。

初めて訪れたお店なのに、家に帰ってきたときのように心が落ち着く。周りのお客さんも、友人や家族とゆったりと談笑している。まさに日常の風景であった。

メニューに大きく載せられていた可愛らしい5色団子を注文。店主のおじいさんがひとりで切り盛りされているようで、食事が出てくるまで少し時間がかかる。
しかし、お客さんの誰一人として店主を急かさない。どんな食事がでてくるのかワクワクしていたり、待ち時間だと感じずにのんびりと過ごしていたり、むしろ各々がその時間を楽しんでいるように見えた。
そして団子を味わう。特別なものではない、優しく懐かしい味がした。

非日常空間の中にある「日常」。
小樽は観光と生活がリンクしていると言われるが、この場所で身をもって体験した。温かくてどこか懐かしい日常と、新鮮でワクワクするような非日常。
この小樽で、ふたつを同時に感じられる不思議な出会いがあなたを待っている。

(カナ)


※本記事の内容は2022年7月時点の情報に基づいたものです。

写真:眞柄 利香