曲がり角の先の素敵

 ここを曲がったら何が見えるのだろう。

 この春から一人暮らしをする私は一人、小樽を歩いていた。とはいっても観光地周辺ではなく、かなり坂を上った住宅街だ。
 家の周りを軽く散策するつもりで歩いていたが、ひときわ目に付く曲がり角に出くわした。先を覗いてみると、木々が生い茂った空間があった。
 まだ日が昇る前のことで、その曲がり角は一層暗く感じた。しかし、その奥に道が続いているのが見え、好奇心から私は歩みを進めてみた。

 細い坂道を上り終えると、見えたのは野球場だった。スタンドがないおかげでグラウンドの反対側まで見渡すことができ、開放感があった。
 きっと試合が始まれば選手たちの熱気が感じられることだろう。ここは小樽公園。角を曲がると小樽の良いロケーションに出会えた。

 野球場を大きく周ってみると、分岐点に行きついた。ちょっとした期待感を持って、入り組んだ道を私は選んだ。

 するとどうだろう、なんだか厳かな雰囲気に包まれていくのを感じた。ふと見上げると、翼を広げた鳥像が鎮座する立派な塔が存在感を発揮していた。
 近くの説明書きを見てみると、どうやら日露戦争の戦死者を祀るためのものらしい。こんな場所で戦争の慰霊碑がみられるのかと驚いた。角を曲がると小樽の歴史への理解に触れられた。

 次の景色を求めて歩いていると、私は小さな公園に足を踏み入れた。思えば公園に入るのは久々だ。近くの遊具を見ていると童心に帰った心地がする。
すると視線の先に展望台のようなものが見え、自然と身体が引き寄せられた。流石は“坂の町小樽“、その景色は格別だった。
 空はまだ暗いが、点々と街の明かりが灯る。港と水平線の間では、昇り始める朝日をさざ波が跳ね返す。たったこれだけで小樽に来てよかったと思わせられる。角を曲がると自分だけの小樽の姿が見えた。

 街を歩けばいつだって曲がり角に差し掛かる。その時はどうか道の先を覗いてほしい。いきなり古めかしい建物が、はたまた隠れた名店が現れるかもしれない。

小樽は歩くだけでワクワクを与えてくれる街。

(アス)


※本記事の内容は2020年8月時点の情報に基づいたものです。

写真:眞柄 利香