静かな語り部

 あまりにもこの町の生活に馴染むそれは、意識を向けるといたる所に佇んでいる。
 小樽。古いものと新しいものが交わり、調和する街。観光地に行かずとも、少し歩けば歴史を感じる建物やものがあちらこちらに見受けられる。その一つがこの郵便ポストだ。

 郵便ポスト、と聞いて私たちが思い浮かべるものは、大抵が真っ赤な箱状の型だろう。まるで現代を写し取ったかのような、合理的で無駄のない、四角い形状が今のスタンダードだ。
 しかし、小樽の街のあちこちに佇むのは、前時代的な円筒状のタイプである。この型の郵便ポストは、1949(昭和24)年頃から使われ始めた。この頃、日本は戦後の復興が進み、物の往来が多くなっていった。港町として沢山の人やモノが行き交う小樽でも、このポストは大活躍したことだろう。

 やがて、人が増え、物流が激しくなると、丸形のポストに代わり角形のポストが普及し始めた。1970年代のことだ。この頃から、丸形のポストは姿を消していくのである。
 私は、ポストを「その時代・社会を映す鏡」のようなものだと思っている。かつての木製から丈夫な鉄製へ代わり、使う人が増えるにつれて使いやすさを重視した形状へ。戦時中は鉄の不足からコンクリート製のものが造られた。

 このぽってりとした丸みのあるフォルムは、ちょっとだけ野暮ったくて、古めかしくて、けれどどこか暖かい。ポストがその社会を映すなら、このポストが使われ続ける小樽もきっとそんな街なのだろう。ちょっとだけ野暮ったくて、古めかしくて、暖かい…。うん、ぴったりだ。

 この丸形ポストは、決して観光用の飾り物ではない。地元の人しか行かない住宅地にも、当たり前のようにすっと立っている。今なおこのポストを使い続けること。そこに、小樽という街と、人々の心意気が垣間見える。
古いものと新しいものが調和し、息づいている。貴方もこの小樽という街に、訪れてみてほしい。暖かな赤が、静かに貴方を迎えてくれるだろう。

(﨑)


※本記事の内容は2018年7月時点の情報に基づいたものです。