山中海岸

 小樽には数多くの海水浴場があった。余市側から蘭島、忍路、桃内、塩谷、オタモイ、山中、赤岩、祝津、豊井、熊碓(東小樽)、朝里、張碓、銭函、大浜(ドリームビーチ)と続く。塩谷海岸や銭函海岸のように、さらに細分化されて海岸名の付いているところもあるが、ここでは省略させていただいた。また、冒頭あったと記載したのは、この中に現在遊泳禁止となっているところもあるためだ。

 さて、今回はこの中から山中海岸について書いてみる。私は山中海岸に一度だけ行ったことがある。それは高校1年の炊事遠足だった。北海道の独自文化と言われる炊事遠足であるのだが、私たちの世代は手軽なジンギスカンとほぼ相場が決まっていた。

 クラスで3-5名の班を作り、その中でそれぞれ分担を決め、鍋係、炭・焚き付け係、肉買い出し係などに分かれたわけだ。その時私は炭・焚き付け係に任命され、なぜか自宅にあった未使用のアルコール燃料コンロをここぞとばかり持って行った。

 小樽駅前からオタモイ行のバスに乗り交番前で下車、写真の案内標識通りに砂利道を山に向かって歩いていくと、峠がオタモイ・祝津間の遊歩道との交差点になっている。たしかここまでは車でも上がれたはずだ。

 ここから山道を下りて行ったわけだが、急な斜面の森の中を左右に蛇行しながら、その坂道はずっと続いていた。しばらく歩き坂道を降りきると、眼前に山中海岸がひろがっていた。

 山中海岸のことは、小学生の頃から聞いてはいた。山中に行った、山中は最高だったなどと自慢げに言う同級生に対し、
 「山中海岸ってどこにあるんだ?」
 「うーん・・・、わかんねぇ・・・、オタモイの近くの山の中だった・・・、だから山中海岸って言うんだわきっと」
 そんな感じで、山中は地名ではなく、山の中にある海岸という意味の俗称だとずっと思っていた。

 前述、アルコール燃料コンロだが、炭の焚き付けに時間がかかっている他の班を尻目に、颯爽とジンギスカン鍋を始めた我が班であったのだが、途中持参した灯油を継ぎ足したため大量の黒煙が出て、肉を焼くどころじゃなくなってしまった・・・。

 他の班から炭を少しづつ頂戴し、改めてかまどを作り、どうにか炊事遠足の体裁を整えたのだった。
 私にとって山中海岸はほろ苦い思い出の地なのである・・・。それから40年以上の月日が流れたが、二度目の山中海岸はまだ実現していない・・・。

(斎藤仁)