過去と現在を繋ぐ道

ここだ。私はここに来たかった。今、目の前にあるのは「手宮線跡地」。
私はこの風景を求めていた。そう感じた。

私は風景画を描くのが好きで、今日も素敵な風景を写真に収めるべく、町を探索していた。そこで出会ったこの古い線路。

いつも札幌で見ている無機質なものとは違って、綺麗な緑をかき分けた一本の道がすーっと続く。自然と歴史が混ざり合ってどこか懐かしさを感じた。暖かい日差しの下で、さあ一歩踏み出そう。

跡地の北端。一番に見えたのは転車台だ。昔、アニメで見ていた転車台をこんなに間近で見ているのだと思うと不思議な感覚になる。次に重要文化財の旧日本郵船株式会社が顔を出す。

古い建物や木製の電信柱が所々に残っていてノスタルジックな雰囲気を醸し出していた。カメラを構えつつ、風景と名残を写す。今日は良い絵が描けそうだ。

中心部に到着した。ふと、聞こえてきたのは声。子供の楽しそうな声、お母さんの優しい声、ご老人夫婦の温かい声…。跡地には地元の人が多く訪れており、この廃線は彼らの生活の一部になっているのだなと実感した。

彼らは歴史を受け入れている。また跡地の写真を撮りに来る観光客もちらほら見えた。またさらに歩を進める。とうとう南端についてしまった。約1.6㎞あるはずなのにそんな長さを少しも感じなかった。

その後、花園稲穂神社の裏手から手入れされていない線路が続いていると知り、そちらも訪れてみるとやはり緑が生い茂っていた。
まるで子供の頃見つけた秘密基地のようなひっそりとした場所である。私の前にも後ろにも人はいない。静かな空間で、今日の疲れを癒してくれる。観光用に草木が手入れされている線路もいいが、野放しにされた自然体の旧手宮線も描きたくなる。

現代人の日常風景にこんなにも馴染んでいて、小樽の人はそんな風景、歴史と共存していた。この廃線は『現代と過去を繋ぐ道』なのだと感じた。

またこの道を歩きたい。今度は誰かを連れて。

(ukim)


※本記事の内容は2021年7月時点の情報に基づいたものです。

写真:眞柄 利香