心を癒す硝子の音

私が小樽堺町を訪れたのは、中学校の宿泊研修以来。実に5年ぶりのことだった。
かつてのように細かなスケジュールに追われるわけでもなく、ただ気分転換のためにふらっと歩く。

平日の午後4時。緊急事態宣言が明けたばかりで、人通りは少ない。
しかしそこは、私の予想と反して寂しさとは無縁だった。

「ちりん」

頭上から涼やかで軽い音が聞こえてきたのだ。
見上げると、深い緑色の街灯の両脇に可愛らしい風鈴が並んでいた。硝子でできた外見が、空の青色を透かしてよく映える。舌の先に吊るされた短冊には「小樽堺町ゆかた風鈴まつり」と書かれていた。

小樽の伝統的工芸である硝子で作られた、夏の風物詩である風鈴を、歴史的建造物が並ぶ堺町で楽しむ。なんてノスタルジックなのだろう。

そしてそれが「まつり」という、誰もが親しみやすい形で提供されている。この町は歴史を大切にし、人を大切にしていることが肌で感じられた。

小樽は硝子の町。私はそれを今までなんとなく意識していたに過ぎなかった。硝子を扱うお店が多いから多分そうなのだろうな、としか思っていなかったのだ。

だが実際に小樽を訪れて偶然硝子の風鈴を見かけたことで、自分の中でイメージが固まった。ああこれだ、と納得することができたのだった。

「ちりんちりん」

風が吹き抜けるたびに、心を癒す音が聞こえてくる。いくつも飾られている風鈴は、色も形もそれぞれでとてもきれいだ。

音につられて見上げていなければ、きっと気付いていなかっただろう。そして、澄んだ青空と海沿いの町の風は私を晴れやかな気持ちにさせた。

いい気分転換になった、小樽を訪れてよかった、私は自信を持ってそう言える。

「小樽堺町ゆかた風鈴まつり」は8月上旬の週末に開催される。このまつりに参加すれば、歴史と人を大切にする小樽をまた感じられるだろう。
そして、さらに新しい小樽の一面も発見できるかもしれない。私はそれをとても楽しみにしている。

風鈴の音と人で賑わう声が合わされば、きっともっと素敵になる。

(みなぎ)


※本記事の内容は2021年7月時点の情報に基づいたものです。
2023年の小樽堺町ゆかた風鈴まつりは8月5日と6日の開催です。

写真:眞柄 利香