北運河がみえるカフェ

 運河沿いを北の方にずーっと歩いていくと、立派な石造りの「PRESS CAFE」というカフェが見えてきます。
 私は小樽商大の学生になって初めて小樽の街に来た時に、小樽に住んでいる友人と観光ついでにこのカフェに立ち寄りました。そこで私は、たくさんの歴史や人々の思いを蓄積してきた小樽の街のとりこになったのです。

 PRESS CAFEは、新一万円札に描かれる人物として知られている渋沢栄一が創業した、小樽市指定歴史的建造物である旧渋沢倉庫の一角を再利用していて、小樽の街並みを象徴する石蔵造りの店内には、高い天井と開放感のある大きな窓、趣のあるクラシックカーが飾られているのが特徴です。
 北運河を行き来する船や、歴史的建造物に指定されている工場群を窓から望みながら、落ち着いた時間をゆったりと過ごすことができます。

 香ばしいコーヒーの香りがする店内に入って、大きな窓のそばの席に座り食事を注文した後に、友人が「窓から見えるあの工場群は、老朽化して解体の危機にあったんだけど、見学会を開催したり活用方法を考える会議を開いたりして保全の取組を進めていたり、小樽の象徴といえるこの運河も地域の人たちの保存運動があったからこそ今の姿があるんだよ。ここPRESS CAFEもそうだけど、昔の建物を再利用しているお店が多いのもいいよね。」という話をしてくれました。
 私はその時、何気なく眺めてきた小樽の様々な風景は、たくさんの人が関わって守り続けてきた証なのだと気づきました。

 街にあるどんな建物も、景色も、誰かがそれを守ろうと手入れをして後世に伝えていかなければ、どんなに価値のあるものだとしてもだんだんと姿を消していって、やがて新しいものに淘汰されていってしまいます。
 しかし小樽は、地域の記憶が埋め込まれた昔からあるものの中に価値を見い出し、守っていこうとする意志をもつ街なのだということを、小樽の建物が、街自身が教えてくれるのです。

 もしあなたに一日、自由に使える時間があるなら、小樽の街を一度散策してみてはいかがでしょうか。
 そして、北運河が見えるPRESS CAFEでおいしい食事を楽しみ、小樽の景色を大きな窓から眺めて、昔からあるものを大切に守り続ける小樽の魅力を感じながら、少し一休みしてみるのもいいかもしれません。

(ミ)


※本記事の内容は2021年7月時点の情報に基づいたものです。

写真:眞柄 利香