あたたかさに励まされて

昔の話をしよう。私がまだ小学生で、小樽に引っ越してきて間もないころの話を。

住み慣れた町を離れ、私は不安と寂しさでいっぱいだった。そんなとき、和菓子好きの母に手を引かれ、街歩きのついでに新倉屋を訪れることになった。

店に入ると、たくさんの和菓子が行儀よく並んでいる。特に、ショウケースに並ぶ五色のお団子が私の目を惹きつけた。花園だんごというみたい。何本か買ってもらって出来立てを店内でいただくことにした。

真っ白で真珠みたいなお団子。上にたっぷりと乗っかっているあんこやすり胡麻。一口かぶりつく。もちもちとした食感の生地と甘ったるくなくふわりと香るトッピングとのハーモニー。余計な飾りつけや雑味がないので、幼い私でもぺろりと食べることができた。気がつけば、たくさん買ったはずだったお団子は皿からなくなっていた。

「あら、ほほえましいわねえ。」声がした方向に顔をむけると、母と私の隣にお年を召された夫婦が座っていた。私たちと同じく和菓子を買いに来たようで、待っている間に色々お話をした。小樽の素敵な場所のこと、新倉屋も花園だんごもご夫婦が小さかった時からあったこと、色んな話を教えてくれた。
その中で私は不安を彼らに打ち明けた。初対面の相手に悩み事を打ち明けるのは、本当は良くないのだが。

すると彼らは微笑んで言う。「そんなに思いつめなくても、大丈夫だよ。お嬢さんならできるさ。」嬉しかった。小樽のひとってこんなにもあたたかいんだなあ、って子供ながらにじいんとした。

ご夫婦と別れ、母と私は店を出る。さっきまでの寂しさは、あたたかいお団子の優しい甘さに包まれてどこかに行ってしまった。不安は小樽のひとのあたたかさに溶けていった。

なんだか、小樽の街全体に歓迎されて、励まされているみたい。小樽はあたたかい街なんだ。そう思うと、どんなことがあっても頑張れる気がした。

大きく深呼吸をしてみる。海風とあんこの香りが鼻をくすぐった。これからの生活に、私なりの希望が見えた。

(こころ)


※本記事の内容は2020年8月時点の情報に基づいたものです。

写真:眞柄 利香