ナップランドと日常

「ばいばーい」「またね」
夕方に子供たちがおしゃべりをしながら元気よく下校していく。それは日本中どこでも見られる日常である。
もちろん観光地として有名な小樽も例外ではない。しかし他の地域から来た人はここでの風景に違和感を覚えるかもしれない。

ここで児童たちが背負っているのは、ランドセルではなくリュックサック。
私も初めて目にしたときはもしかして今日は校外学習だったのかな、と思ったものだがそうではない。低学年の子も高学年の子もみなリュックを背負っている。
それこそがここの『普通』なのだ。

また、さらによく見ると多くの小学生が同じ形のリュックを使っていることが分かる。
独特の平たいランドセルのような形が特徴的な『ナップランド』である。
ランドセルのように教科書が入れやすい形状で、素材は軽いナイロン。いわばナップサックとランドセルのいいとこどりのリュックなのである。

坂が多い小樽のまちで子供たちが少しでも楽に学校に通えるようにと生み出された。地元の小学生の多くがこれを使っているのだという。道外出身の私としては小学生=ランドセルというイメージがあるため、その光景を見ると今でも不思議な感じがする。

小樽駅のホームのガラスの照明、駅前通りから見えるフェリー、観光客で賑わう運河沿い、そこかしこにある歴史を感じる石造りの建物。
観光地として多くの人でにぎわう、そんな光景が小樽では日常としてすぐそばに感じられる。そのまた逆に、この珍しい風景が馴染んだ日常も観光として訪れたときに見ることができる。

かつては北海道開拓の中心地として栄え、その後は観光スポットへと姿を変えて毎年多くの人が訪れるようになった町、小樽。
そんな他にはない歴史を持つこの町だからこそ、有名どころをめぐるのではなく、ただ街を歩いているだけでもきっと新たな発見があるのではないだろうか。

(けい)


※本記事の内容は2020年8月時点の情報に基づいたものです。

写真:眞柄 利香