温かい小樽に感謝

小樽は温かい。
私がそう感じたのは、旭展望台に行った時だった。

小学3年生の時、父、母、妹、弟、私の5人家族で小樽へ足を運んだ。私たちは長期休みになると必ずどこかへ出かけていたが、この小樽の思い出だけは今でも鮮明に思い出す。

あるホテルに一泊した次の日の朝、旭展望台へ散歩に出掛けた。ホテルからそこまではほぼ坂道で、当時の私にとっては少し息が切れてしまうくらいだった。しかし、そんなことをすっかり忘れてしまうような温かさがあった。

それは、笑顔での挨拶だった。多くの人たちが「おはようございます!」と挨拶を交わしながら散歩をしたり、ランニングをしたりしていた。それを通じて人との繋がりを大切にできるって素敵なことだな、と子供ながらにそう感じた。

それだけじゃない。私の弟は、当時口が達者な3歳児だった。そんな弟が、展望台のもっと奥から下ってきた大きな袋を持ったおじさん達に「その袋なーに?」と話しかけた。すると、「ウドだよ!」と返してくれたが、弟は「…なにそれ?」という顔をした。
すると、おじさん達はウドについて教えてくれるだけでなく、貴重なそれをいくらか分けてくれた。初めて会った私たちにこんなに親切に接してくれたことにびっくりしたと同時に、心がほっこりした。

旭展望台の近くでは、小樽ゆかりの作家、小林多喜二の文学碑が見られる。

そんな彼の名言に「ささやかな普通の生活こそが『光』」という言葉がある。私が体験した小樽市民の笑顔の挨拶や優しさは彼らにとってささやかな普通の生活だと思う。

しかし、当時の私にとっては、人との繋がりを通して人の温かさを実感できた幸せな時間だった。まさに、光のようだった。

気取っていない。ありのままの温かさ。このような場所は他にはないんじゃないかと思った。

そんな小樽に感謝したい。小樽には、いるだけでほんわか、気分が晴れやかになる、そんな魅力がある。それは、偉人が残した言葉が胸に刻まれているだろう小樽市民のみが持つ温かい心のおかげだと感じる。

(いくまる)


※本記事の内容は2020年8月時点の情報に基づいたものです。

写真:眞柄 利香