光の魔法に包まれて

 その日は天気も良く休日の午後だったため運河周辺は人で溢れかえっていた。気温が高くずっと歩いていると暑くなってきた。

 運河沿いの石造りの倉庫跡にひっそりと書かれている「ステンドグラス美術館」の文字を見つけてすぐに飛び込んだ。少し涼むだけ、そう思っていた。
受付を済ませて奥にある通路を歩く。やはり涼むのにはちょうどよい、少ししっとりした倉庫の中特有の空気。少し薄暗い。全く物音が聞こえない。暗い通路を抜ける。

「ふわっ」目の前が様々な色の光に包まれた。360°全方位にとても大きなステンドグラスが広がっていた。わたしの想像していたステンドグラスの大きさをはるかに超える作品の数々がそこには広がっていた。窓のない真っ暗な倉庫にステンドグラスを通した淡い光のみが入ってくる。

 わたしは息をのんだ。日本ではあまり見ることのない作風のステンドグラスが多く、また、現代では再現できない技術を使ったこれらのものは、非現実的に感じた。まるで宙に浮いているのかのような感覚にも襲われた。

しばらく入り口で立ち尽くしていた。奥にも作品があるのでわたしは歩き始めた。自分の足音が建物全体に響き渡る。そのときわたしは気づいた。この空間に私しかいないことに。
 私の足音、呼吸の音以外には何も聞こえない。休日の午後だっていうのに、こんな静かなところがあるなんて。私は時間を忘れてこの光の空間に身を潜めていた。

 建物から出るとまたいつもと同じ活気にあふれた港町、小樽がそこには広がっていた。今まで自分が異次元にいたかのような気分になった。
 まだあまりみんなが知らない、静かで幻想的な街、小樽。その一面を知れたような気がした。わたしはすこし微笑みを浮かべながら、活気ある声の飛び交う市場を通り抜けた。

(ガラスの妖精)


※本記事の内容は2019年6月時点の情報に基づいたものです。