郷愁そそる水すだれ

 ある日、温かな日差しに誘われて私は奥沢水源地までドライブに行った。奥沢水源地といえばお馴染みの『水すだれ』らしいが、私は一度も見たことがなかったため、それがどんなものなのかを知らなかった。
簾というくらいだから、滝のように水が流れ落ちているんだろう。そんな具合に捉えていた。

 しかし、実際に行ってみると想像とは全く違う景色が目の前に広がっていた。
 水すだれの正体は階段式溢流路で、約21メートルの落差を10段で流れ落ちる水の様子からこう呼ばれるようになったという。
 水管橋から見る水すだれは、差し込んでくる光を受けて美しく輝き、爽やかな涼感を呼んでいる。

 私はその場に立ち止まって、流れる水をじっと見つめた。幼いころに祖母と川遊びをした記憶、従弟と一緒に魚を追いかけた記憶など、様々な懐かしい記憶が美しい水の流れと音によって思い出され、いつの間にか郷愁のようなものを感じていた。

 最近の小樽は外国人観光客で賑わっており、やや都会らしくなってきた。確かに活気に満ちた町は良い。しかし、この水すだれはそんな騒がしい雰囲気から私たちを解放し、ありのままの自分、純粋だったころの自分を思い出させてくれるように思う。

 奥沢水源地には昔、奥沢ダムという水道施設があり、北海道では最も古い水道用ダムであったという。私の親戚が奥沢に住んでいたが、その家の水道水が美味しかったことを今でも鮮明に覚えている。
大正3年に完成してから約1世紀にわたって小樽市民の水がめとして水道水を供給したということもあり、どこかに長い年月を偲ばせる部分があるように感じたのはそのためかと思った。

 奥沢水源地は、奥沢十字街から山側に入り、道なりに沿って進んでいった先にあり、豊かな自然に囲まれながらゆったりと時間が進んでいる。人気もほぼないため、中心部と比べると全く違う土地にやってきたような感覚になるだろう。

 しかし、これこそが奥沢水源地のよさだと私は思う。慌ただしい日常につかれたときには、郷愁をそそる水すだれをみて自分を見つめ直してみてはどうだろうか。

(神崎)


※本記事の内容は2019年7月時点の情報に基づいたものです。