商大裏ルート

 商大の入口は、もうひとつある。
 地獄坂をのぼって、大学につく前に左へ曲がる。そして少し進んだ先に茶色い階段がみえて、「あ、みつかっちゃった」と言うかのようにそこにいる。

 まるで小さなジブリの世界だ。くすんだ茶色は古めかしく、ほのかに懐かしさを感じさせる。のぼるとカンカンと響く音は軽く、心地良い。耳をすませば、草木のさわさわと鳴る音がやさしく聞こえる。土と草がかおり、森の中にいる感覚になる。

 階段の先には2つの歴史が形として現れる。ひとつは「和田徹三詩碑」。もうひとつは「緑丘戦没者記念塔」。
 前者は1994年に建てられた詩碑。約80年前に商大を出た詩人・和田徹三の詩が刻まれている。
 後者は1969年に建てられた。戦場に散った学生・教員347人の名前と慰霊の言葉が刻まれた碑が、白い塔に収められている。

 ひとつ、この階段を見つけたときの話をしたい。

 札幌の碁盤目で暮らしていると、小樽はまさしく迷路だ。しかも立体迷路。そんな小樽で地図を片手に散歩するのも楽しいが、私のお気に入りは何も持たずに行き当たりばったりで探検すること。
 青い空が見える日に、涼しい海風に吹かれながら。つぎの角を曲がったらどこに行けるんだろう。あの坂に行くにはどこから行けばいいんだろう。そんなことを考えて、この日はずいぶん遠回りをしながら商大を目指した。

 商業高校を横目に、もうひと寄り道したくなって左へ進んだ。どこに着くんだろう、とわくわくしながら見つけたのがこの階段。
 ただの階段なのだけれど、特別なものを見つけたような気分だった。ここは誰も知らないかもなんて嬉しがっていた。まるで秘密の場所。そう思った矢先、すぐに学生がのぼってきた…(笑)

 きっと、小樽にはこんな出会いがたくさんある。あっちに行ってこっちに行って、迷路は迷うから楽しい。自然が、歴史が、思わぬところで姿をみせる。
 今日はあの交差点を右に曲がって帰ろうかな。

(成瀬)


※本記事の内容は2019年7月時点の情報に基づいたものです。