硝子のカエル

glasswork

私の小樽の思い出といえば、このちいさなカエルの硝子細工である。
小樽は硝子細工の街。観光地の運河沿いを歩くと硝子工房や硝子細工のショップがいくつも並んでいる。どのお店にもそれぞれ特色があって、色とりどりの硝子細工が小樽の思い出を彩っている。

私は生まれも育ちも札幌だったが、父の趣味がドライブだったので小さな頃から小樽にはよく訪れていた。海に遊びに行ったり、天狗山に登ったり、冬にはスキー場でスキーもした。しかし、小さな頃からインドア派でもっぱら折り紙や粘土遊びなんかを好んでいた私には小樽の魅力は別にあった。
運河に並ぶ硝子工房である。

私にとって小樽はとにかく硝子細工を見る場所だった。
ステンドグラスや硝子のコップ、光に当たると色が変わる硝子、などお店に並んだキラキラ輝く硝子細工を見て歩くのがとにかく楽しかった。訪れるたびに一通り見ないと気が済まなかったので、家族に置いて行かれてはぐれるなんてことは毎回のようにあった。

そんななか私が特に気に入っていたのが硝子で作られた動物たちだ。
イヌ、ネコ、クマ、キツネ・・・そこには色とりどりな硝子で作られたちいさな動物たちが並んでいた。石ころのような小さなサイズなのに、耳、しっぽ、細い手足が精巧に作られている。ひとつひとつ手作りされているため、みんなそれぞれ顔が違うのがかわいらしい。

私はそれがかわいくて気に入ってしまい、自宅にこの硝子の動物園を作りたくて仕方がなかった。しかし、これらはもちろん職人の硝子細工。子どものお小遣いで買い揃えられるようなものではなかった。
もちろん私は親にねだったが、欲しいものは自分のお金で買え!という家庭だったので、当然買ってはもらえなかった。

そこでぐずった私に当時の店員さんが見せてくれたのがこのちいさなカエルである。
小指の先ほどの本当にちいさなカエルだが、パーツの精巧さ、顔の愛嬌は健在だ。
私はこのちいさなカエルをひとつだけ買って帰った。

そしてそれ以来、私は小樽を訪れるたびにこのちいさなカエルひとつずつ買った。それが今ではこんなに増えてしまった。

ちなみにこのカエルはさまざまな色があってそれぞれ意味があるらしい。
赤が「幸せかえる」、黄色は「金かえる」、緑が「若がえる」、紫が「無事かえる」などなど。

机に並ぶこのかえるたちを見るたびに子供の頃の小樽の思い出がふっとよみがえる。
再び硝子工房を訪れたなら、また一匹お迎えしたいと思う。

(渚)