旧板谷邸

former_itaya_residence

 旧板谷宮吉邸は大正15年(1926年)から昭和2年(1927年)にかけて建築された、東雲町の見晴らし坂を上った、小樽港を一望できる高台にある豪邸であった。長らく門扉は閉められ、傷んだ塀のあちこちには雑草が生い茂り、中を窺うことはできなかった。

 そこが平成17年(2005年)4月、今から10年前に「小樽旧板谷邸海宝樓(かいほうろう)」として、小樽運河の臨港線沿いにホテルを2つ経営する札幌の不動産会社が、新たな観光スポットをオープンさせた。

 既に公開されていた祝津の旧青山家別邸、同じ東雲町の旧寿原邸とともに、小樽に最後に残された豪邸の一般公開ということで、小樽ファンの観光客のみならず、小樽市民にとっても大変な楽しみとともに、大いに期待されていた。

 早速、私もその年のGWに家内と出かけてみた。はじめて開かずの門をくぐり旧板谷邸に足を踏み入れた。自動券売機で入場券を購入し、邸内をゆっくりと見学させていただいた。

 小樽市長も務めた海運王二代目板谷宮吉氏は、小樽の政界、経済界に幅引く君臨し、社会貢献活動にも熱心で、大正14年(1925年)北海道初の市立中学校である、小樽市立中学校(現長橋中学校)の土地一万坪と建設資金を寄付したことでも有名だ。

 戦前の個人所得税納税額、いわゆる長者番付でもトップの年もあったというから驚きだ。小樽経済の活況状況が想像できる逸話である。

 オープン当初は珍しさもあり多くの入場者が来場したが、年を追うごとに減少して行ったという。建物見学は一度見たらもういいという、リピーターの少なさ、歴建運営の難しさを露呈することとなってしまった。

 さて、この旧板谷邸の現在は写真の通り、和風の玄関母屋とその海側洋館、石蔵が残されているが当然休業中である。背後には前述の不動産会社が運営する賃貸マンションがそびえ立ち、景観が大きく変わってしまった。

 邸内の和風庭園も一部を残し小樽港を一望できる景観のよい???マンション駐車場となってしまった・・・。まあ、簡単な事は言えないが、早く別の形でもいいので復活してほしいとは思っている。

(斎藤仁)