いちばん好きなしょうゆラーメン

tokaiya

小樽でしか食べることのできないそのラーメン屋までは、小樽駅から歩いて3、4分で行ける。信号につかまってしまっても、徒歩5分もかからない。

私が大学時代に訪れた飲食店ナンバーワンは、間違いなく、「らーめん渡海家」だ。

初めてのれんをくぐったのは、1年生の頃だった。

店内は薄暗く、黒いカウンター席が奥に伸びている。BGMはジャズ。ここは本当にラーメン屋なのだろうか?

しょうゆ1つ、と注文したのち、10分ほどして「どうぞ。しょうゆです」と目の前に運ばれてきたそれは、とても澄んだ色をしていた。
私はてっきり、店員さんがメニューを間違えたのだと思い、すこしわざとらしく「これ、しおラーメンじゃない!?」と友人にこぼしてしまった。

しかし、食べ始めてみると、すぐに私は自らの過ちに気づいた。
これは正真正銘、“しょうゆラーメン”だった。白醤油を使用しているらしく、スープはとても綺麗な色をしている。スープを口に含むと、うまみがいっぱいに広がり、たくさんのだしが溶け込んでいるのであろうことがうかがえた。
店主はもともとフレンチのシェフだったそうで、素材の細やかな味わいを大切にするこだわりが感じられた。
やさしく、繊細で、上品なスープを、私は夢中で飲みほした。

今まで、こんなラーメンは食べたことがなかった。そもそも、実を言うとラーメンがあまり得意ではなかった。だけど、この店のこのしょうゆラーメンは、それまでの私の中の「ラーメン」という食べものの常識を覆した。

ほかでは味わえないそのスープの深みが忘れられず、二度、三度と足を運んでいるうちに、いつの間にか一か月に一度は訪れるようになっていた。私はすっかりこの渡海家の虜になった。

大学を卒業してしまうと、もう学校帰りに気軽に渡海家を堪能することはできなくなる。
今度は、渡海家のために小樽へお出かけに行く番だ。きっと、ラーメンのスープが冷えた身体を温めてくれることだろう。

(もよう)