一原有徳

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小樽駅から海にまっすぐ進む途中に「小樽市民センター」があります。この「小樽市民センター」には小さなホールがあり、通称マリンホールと呼ばれています。ホールでは、音楽会や講演会等が行われています。
利用されたことがある方も多いと思いますが、正面玄関の壁面に飾られたレリーフのことはご存知でしょうか。これは、「現代版画の鬼才」と言われた一原有徳氏の作品です。
一原氏の作品は、国内のみならず、海外でも高い評価を受けているそうです。
「OLD TOWN」と名付けられたこのレリーフは、マリンホールの竣工の際に制作されたもので、スキーのジャンパーや海といった小樽を象徴するものが織り込まれ、光の差し込み方によって様々に表情を変える素晴らしいものです。

一原有徳氏は、生まれこそ徳島ですが、少年の頃から小樽に住み、2010年に100歳でその生涯を閉じたのも、この小樽の地でした。
若い頃から美術に興味があったけれども、画材を買う経済的余裕がなく、また、戦時中だったこともあり、彼がデビューしたのは50歳の時でした。遅咲きと言えると思います。
しかし、彼の生き方を見ていると、なにかに取り組むのに遅すぎるということはないのではないかと感じます。登山家でもあった一原氏は、登山中の遭難事故や、制作中にプレス機に指を巻き込まれ左手の中指の先を失うなど、様々な困難に遭いますが、それをはねのけて、高齢になっても創作活動を続けます。
前述の「小樽市民センター」のレリーフも80歳を過ぎて仕上げたものでした。
また、その前年には、東京の恵比寿ガーデンプレイスタワーのエントランスロビーの壁面レリーフの制作もしています。若い頃にやりたくてもできなかった創造のパワーが、溢れ出していたのではないでしょうか。

高名な芸術家について、私ごときが何か言うのは大変おこがましいのですが、創造活動は、人間にとって、本能にも近いような欲求ではないかと感じます。何かを生み出すことは、それ自体生きる喜びだと思うのです。

その喜びにぜひ触れてみてください。一原氏の作品は、市立小樽美術館の「一原有徳記念ホール」でも鑑賞できます。

(川)