人情

tanakashuzo

「人情」とは何か。
それは人から人に与えられる優しさや暖かさである。
私がそれを体験したのは大寒を迎える直前の雪の日のことだった。

その日は朝から吹雪で家の外に出るのも躊躇われるほどだった。しかし今日は外に出なければならない。雪と格闘すること30分。私は寒さに白旗をあげた。

とりあえず体を温めるためにどこか喫茶店などの入れる店を探していた。そこで見つけたのが田中酒造である。探していたのは喫茶店・・・のはず。しかし入れる店はここしかない。寒い。限界。入るしかない。あまりの寒さに考えることを放棄して入店する。ずるい言い方ではあるが少し暖を取らせてもらうため中にお邪魔した。

私がお邪魔した田中酒造本店は色内にあり、小樽の歴史的建造物として認可されている。
店内はお正月だからか赤を基調に明るい装飾。たくさんの種類のお酒が置いてあり、昭和の酒蔵の雰囲気、要素をそのまま活用している。田中酒造本店は昭和2年の創立からそのままの形を維持しているのだから驚きだ。壁の様相もその壁にかかる看板も昭和の趣を伝えてくれる。

1つ1つの酒類を覗きながら店内を1周する。すると奥から出てきてくれたのは若い店員さん。寒さにかじかんだ手をすり合わせる私を見てか、「よろしかったらどうぞ」となんとお茶を差し出してくれた。
「ごめんなさい、、、購入目的じゃないんです。。。」とは言えずせっかくの好意をいただくことに。そのお茶は何のことはないただの玄米茶であったが飲んでみると体とともに心がほっこりと暖かくなった。
暖かい店内と昭和から続くぬくもり、店員のお姉さんの暖かい優しさ。暖かくなったのは何も体だけではなかった。
最近ではスマイル0円を売りにしているファストフードの店もあるが、田中酒造のように昭和から続くぬくもりと暖かい優しさを提供してくれるのは小樽の独特の人情であるように感じる。

結局、一番人気の“小樽美人”を手に、人情を胸に抱え店を出たのだった。

(及)