カットクラブウイル

カットクラブウイルは地獄坂の麓にある理容店だ。商大生なら毎日目にしているという人も多いだろう。私にとっては思い出深い場所だ。

実は私はこのお店を訪れるまで、理容店というものに行ったことがなかった。いつもはカット専門のお店だったため、ここで経験した何もかもが新鮮だった。

店内に入ると待合用の小さなカウンターがあり、その奥にカット用のスペースがある。マスターと奥さんが夫婦で切り盛りしていて、温かく迎えてくれる。まず洗髪してもらい、その後カットしてもらう。マスターは見た目はちょいワルだが、気さくな人だ。「趣味とかあるの?」と聞かれ、「最近は釣りによく行きます」なんて言うと、「じゃあかっこよくしてあげるから、女の子もたくさんつってくるんだよ」と冗談をかます。話してるうちに、いつもあっという間にカットが終わる。

そのあとまた髪を流してもらって、髭を剃ってもらう。最初はこのとき顔にかけられる熱いタオルに驚いた。思わず声をあげそうになったのを覚えている。髭剃りクリームの匂いも独特だ。おじさんくさいというのが一番しっくりくるだろうか。そして何と言ってもナイフのような剃刀。本当に剃れるのかと少し心配だった。もちろんプロなのでしっかり剃ってくれる。

さあこれで終わりかなと思うと、今度は奥さんが肩のマッサージをしてくれる。自分にとってはこれが一番衝撃的だった。理容店とはマッサージまでしてくれるところだったのか。このマッサージがとても心地よく、疲れが一気に取れる。私は地獄坂に天国を発見してしまったと思った。

会計の前には、奥さんがいつもオレンジジュースとチョコパイを出してくれる。本当に至れり尽くせりだ。カウンターに座り、普段であれば二口ほどで食べていまいそうなそれを大事に食べる。ほっと一息つける気遣いがありがたい。食べ終わると、なんだか名残惜しいと思いつつ、店を後にする。大丈夫、髪はすぐ伸びる、また来よう、といつも思わせてくれる。

小樽の人々には特有のあたたかさがある。そんな街だからこそ、人々を惹きつけてやまないのだろう。小樽を訪れたなら、ぜひこの温もりを肌で感じて欲しい。

(わたお)


※本記事の内容は2018年1月時点の情報に基づいたものです。