「夕月」りゅうさんの店

 花園の有名な「きたとうがらし」の向かい側の路地を進むと、小さな看板と小さな扉がある。おいしそうな香りとにぎやかな声、小樽の隠れた小料理屋兼居酒屋「夕月」りゅうさんのお店である。

 私がこの店に出会ったのは大学1年生の頃である。出てくる料理はどれもおいしく、「おいしい!」というと「まだお腹すいてないかい?」と食べきれないほどたくさんの料理が出てくる。母のように話しかけてくれるこの人こそ店の店主“りゅうさん”こと千葉龍子さんである。

 料理はその日のりゅうさんの気分!肉じゃがから焼き鳥、時にはラーメンや寿司まで出てくることがある。本当にたくさんの料理が出てくるのだが、この店はりゅうさんが1人で切り盛りしているのだ。そしてこの料理は自分で食べたい物をよそい好きなだけ食べてなんと1000円!りゅうさん大丈夫!?と思わず心配になってしまう。みんながお腹いっぱいになったところで次はカラオケの始まりである。りゅうさんは元々歌い手の仕事をしたことがあり、とても聞き入ってしまうハスキーな歌声。お客さんからはりゅうさんへのリクエストが絶えない。

 カウンター8席ほどの小さな店だが週末はいつも満席。それでも来客が絶えないのでお客さんがカウンターの中に入るなんてことも。りゅうさんが大変そうだとお客さんが手伝いだす、なんとも不思議な店である。

 お客さんはみんな優しく、知り合った人からおいしい店やおすすめスポットを聞いたりするため、この店に来るたびにどんどん小樽の好きなところが増えていく。
 小樽の若い人から人生の先輩まで、私はたくさんの人とこの店で出会い、色々な人生経験を聞いてたくさん勉強になった。今では常連となり他のお客さんとりゅうさんにかわいがられるようになった。そしてりゅうさんは私にとって小樽の母のような存在になった。この店を通じて小樽の素敵な人々と出会い、小樽が大好きになった。
 1人で行っても店のみんなが温かく迎え入れてくれる、ぜひ行ってほしい隠れた名店である。

(小平菜月)