旧日本郵船株式会社小樽支店

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国の重要文化財、旧日本郵船株式会社小樽支店を「博物館」と呼ぶ市民はまだ数多い。1955年(昭和30年)に日本郵船から小樽市に譲渡された翌1956年(昭和31年)から1984年(昭和59年)まで、小樽市博物館として使用されていたからである。中央バス手宮線のバス停に「博物館通り」という名残がある。

小樽市内の歴史的建造物に番付があったのなら、日本銀行旧小樽支店ともども横綱にランクされるのではないだろうか。重要文化財になっているという点では日本銀行旧小樽支店より上で、この旧日本郵船小樽支店は東の正横綱といったところだろう。

この建物、1904年(明治37年)着工され、1906年(明治39年)に落成している。当時の手宮地区は、柾(まさ)屋根に重石を乗せている一般家屋が大多数であった。こんな時代に、重厚なヨーロッパ建築を建てたのだから、まるで異次元空間のような場所が出来上がったことが、私にも容易に想像できる。

この建物は、日本を代表する近代建築家、佐立七次郎が設定している。佐立の作品はほとんど現存していない。重文指定されたのもこのことが大きい。日本で近代建築を学ぶ者は、必ずと言っていいほどここを訪れるという。
建物の中には、海運王国日本を代表する三菱財閥がその威信にかけて作り上げた装飾や調度品が随所にちりばめられている。

私は子供の頃からこの建物をとても身近に感じている。それがゆえ、残念でならないことがある。小樽市民はもとより、観光で訪れる方たちにもほとんど知られていないということである。いわゆる『北のウォール街』界隈の明治、大正期の建物よりはるかに知名度が低い。

建物のすぐ前にある運河公園で、ここ2年連続して、8月に「北運河サウンドエナジー」という音楽イベントが、北運河地域再活用事業の一環として、小樽市商工会議所の肝いりで開催された。この建物を背景にした、ステージを設置してのイベントである。

イベントを見た小樽市外からの方々は異口同音に、
「小樽運河にこんな素晴らしい景観の場所あったんだ」
「運河といえば、浅草橋から中央橋までしか行かなかった。こんなところがあるとは知らなかった」
というような話しをされたのであった。

旧日本郵船株式会社小樽支店の入館料は大人たったの100円である。100円以上の価値は私が保証する。ぜひ、ゆっくりとした時間の流れを、この建物と共に感じていただきたい。

(1984年から3年の歳月をかけて完全復原工事がなされているが、これに次いで、現在、保存修理調査工事が行われている。次の100年も変わらずに、いにしえの明治近代建築を楽しんでいただくための調査工事である。このため、2014年3月31日までは臨時休館していて、館内見学はできなくなっている。あしからず。)

(斎藤仁)