天狗山の思い出

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小樽には眼下に街並を一望できる
天狗山という山がある。
ここは僕の宝の山だ。

市民が多く訪れるスキー場として親しまれている。
もっとも最近ではミシュランで1つ星を取ったことでも有名な場所だ。

スキーが何より好きな僕にとっては、
天狗山は小樽スキーの思い出の場所だ。

子供の頃、冬休みになると毎日、
親に山の麓まで自動車で送ってもらった。
スキーを付けて意気揚々とリフトに乗り込むと、
リフト乗車中は林の中にあるうさぎの足あとを目で追って、
巣穴の場所を「あの辺りじゃないか!」なんて想像した。
リフトを降りてからは眼前に広がる街並や海を楽しみつつ、
滑走のスピード感に明け暮れた毎日だった。

そのころはリュックサックなどを持っていなかった。
休憩した時に食べるおやつは、ゴンドラ駅舎付近にある
林の中が僕らの保管場所だった。誰も入らない林に入り、
目印となる木の根本にバケツ1個分ぐらいの穴を掘る。
そこに仲間たちとこっそり持ち寄った
おやつやジュースを埋めておくのだ。

スキーに疲れて、休憩したくなったら、
降り積もった雪の中からさっき埋めた物を掘り起こす。
たったこれだけのことだが、
不思議とまるで海賊が宝を掘り起こすような気分になる。
毎度やっていることは同じなのだが、
仲間と宝を大発見する雰囲気がただ楽しかったのである。

小樽は北海道スキー発祥の地だ。
明治の終わりに軍事訓練や冬山踏破の道具として
始まったスキーは、ストックは1本から、2本になり、
アルペンスキーもカービングスキーと姿を変えた。
歩いて登った時代はとうの昔、
戦後すぐに北海道内で初めてのリフトができると
より手軽に滑走に専念できるようになった。
その間、やり方は時代時代で変化したが、
自然と楽しむというその根本は変わらない。

大正、昭和、そして平成を迎えても、その時代の子供たちも
それぞれスキーの思い出があるのだろう。
天狗山には小樽で育ったスキー少年の思い出が詰まっている。

(近)

画像協力:小樽天狗山ロープウエイ(中央バス観光商事)