鰊御殿の思い出。

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ドラマチックなエピソードではない。ぼんやりと記憶に残っているだけだ。
でもそれは優しく、温かで、とても穏やかな一コマ。
小学校低学年の頃、よく家族で小樽へ遊びに行った。決まって鰊御殿に行った。
ものすごく混んでいて、すれ違うのもやっとなくらいに、あの大広間の一面に家族連れが弁当を広げてくつろいでいた。うちはいつもおばあちゃんと一緒だった。三段くらいのお重にいなりやご馳走を詰めて(ワカサギの佃煮やバナナもあったと思う)みんなで食べた。畳のにおいが親戚のおじさんの家に行ったときのような感じがして、なんとなく落ち着けた。窓から見下ろす海が静かだった。その場所が、栄華を極めた鰊漁の番屋であったということは僕には関係なかった。去年、数十年ぶりに鰊御殿に行った。展示物を見ていると鰊豊漁の様子やヤン衆達の活気ある声が伝わってきた。汗や涙、先人達の魂が宿る場所。当時の漁場を再現する作業着が置いてあり無料で貸出していた。東京から来た従兄弟たちは喜んで着替えた。小樽の不思議な記念写真ができた。それぞれの小樽。それぞれの思い出。僕にとっての鰊御殿は、やっぱりどこまでも穏やかで、優しく微笑んでいるおばあちゃんの姿だ。

(よし)