語り継ぐあたたかさ

 私が初めてぶん公と出会ったのは、からりとした日差しが続く8月の時だった。
 商大のオープンキャンパスで訪れた初めての小樽に胸を弾ませ、うきうきと観光していた私の目の前にふと現れた犬のはく製。どうして博物館に普通の犬が?と疑問に思い、吸い込まれるように説明を読んだ。

 ぶん公は、今から百年ほど前に火事の焼け跡で発見された一匹の仔犬だった。不憫に思った当時の消防隊の隊員たちに引き取られ、消防組で暮らすようになっていた。やがて隊の仕事を手伝うようになり、隊員たちや近所の人々に可愛がられてよくお菓子や食べ物をもらっていたという。

 ぶん公の前に飾られたキャラメルを見る。時代を感じさせるレトロなパッケージが、ぶん公と小樽の住民との間に流れたあたたかな日々を思い起こさせた。

 そして時は流れ、今年の4月。
 再び小樽の土を踏んだ私は、生活必需品を買いそろえるため家族とともにショッピングセンターへ行っていた。買い物を終え、休憩スペースでまったりしていると見覚えのある姿が目に飛び込んできた。ぶん公だった。

 

 大きなポスターに、ぶん公の姿が映っている。残念ながらなんのポスターなのかは忘れてしまったが、確かに今、この時代でも、ぶん公の写真を使ったポスターが掲示されているのである。ぶん公が生きている間は言うまでもなく、天国へ旅立ってしまったあとも小樽の人々は彼を大切にし、百年間もの間ずっと語り継いできたのだ。

 観光物産プラザ前には、季節の衣装を身にまとったかわいらしいぶん公の銅像が佇んでいる。ちなみにコロナウイルスが猛威を振るっていた5月ごろのぶん公は、なんと布製のマスクをつけていたようだ。私はこのような光景を見て、小樽の人々とぶん公の間で育まれてきた深い絆を改めて感じることができ、ほっこりとした気持ちになった。

 今もなお小樽の人々に愛されるぶん公。動物と心を通わせ、ちょっとした遊び心も持ちあわせる小樽の住民。私はまだここに移住して日が浅いが、こういったやさしい小樽の雰囲気が大好きだ。

(るめ)


※本記事の内容は2020年8月時点の情報に基づいたものです。

写真:眞柄 利香