夏の日

 すっきりと晴れた8月の初旬、堺町通りでは、ゆかた風鈴祭りが開催されていた。

 小樽駅から15分ほど歩き、堺町通りへ向かう。歩行者天国の端に着くと赤い木枠にたくさんの風鈴が吊り下げられている。普段から海鮮料理店やガラス製品店が並び観光客で賑わっているが、今日は違った1日だ。

 風鈴トンネルをくぐってゆく。鮮やかな黄色、厳かな藍色。すきっとした高い音、包み込むような低い音。仮面ライダーやクラゲをモチーフにした色々な形。それぞれの個性を持った風鈴が、夏の日差しを受けてキラキラと光る。体のすぐ横を乾いた風が通り抜け、そのまま風鈴を揺らしてゆく。

 風鈴トンネルを出ると、どこか懐かしいガス灯の並びの中に、浴衣姿の親子が目に留まる。女の子は、お母さんの手と水風船をギュッと握り、キョロキョロとあたりを見回していた。履き慣れない草履は少し歩きにくそうだ。

 ふと何かに気づき向こうをまっすぐ見つめる。そこには、大きな声で歌いながら商店街を練り歩く子どもたちがいた。女の子は一生懸命にお母さんの手を引き、その中に溶け込んでいった。

 

 北のウォール街と言われた小樽は、かつて、にしん漁で栄えていた。当時利用していたガラス製の浮き玉を作る技術が、透き通ったガラス細工を生み出している。さらに、堺町通りには、現代の建築では見られないような建物も数多く残り、まるでタイムスリップしたかのような不思議な感覚になる。

 今だから作れるガラス工芸。歴史が色濃く残る街の風景。こんなところにも、歴史との繋がりが感じられる。
 小樽の人々は、昔ながらの小樽の力に少しだけ手を加え、今に風情を生み出してゆく。歴史の移ろいを感じながら、さらに力強いものへと工夫を凝らしてゆく。

 今と昔が共に生きる小樽という街は、人々が作り上げた涼しげな夏の日常を「あたたかく」見守っている。

(W・Y)


※本記事の内容は2020年8月時点の情報に基づいたものです。

写真:眞柄 利香