ゆったりとした時間の流れる雑貨屋さん

私が小樽に行くと必ず立ち寄る、ビブレサヴィプラスミーユという小さな雑貨屋さん。

初めて行ったときは、「駅から10分か、近いから行ってみよう。」とマップを頼りに歩いた。しかし札幌の街並みに慣れた私には、ひっそりした通りにあるこの店を見つけるのに10分では足りなかった。

店の看板を見つけると、その上にはもう一つの、古びた看板があった。「川又商店」―そう、ここは小樽市の歴史的建造物のひとつを利用した、いわゆる古民家雑貨店なのだ。目線の先には、木のフレームでできたガラス扉。中の黄色っぽい光が見えるあたたかな印象だが、顔をあげると古びた瓦屋根と鶴や亀の彫刻がされた石壁がずっしりたたずんでいる。

お店に入ると二人の女性が優しく迎えてくれる。国内のかわいい雑貨や洋服、絵本はもちろん、海外のビンテージ品なども取り扱っている。海の向こうのありふれたパン屋さんの紙袋も、ここではかわいい雑貨のひとつに変わる。どれも素敵なものばかりで、ずうっと見ていられる。

雑貨にみとれて店内をまわっていると、ギシ、キシ、と木の床がきしむ音がする。歴史的な建物であることを再認識させられる瞬間だ。ここが古民家のままであったら、不気味で怖く感じるであろう。けれど、不思議とそうは感じない。むしろ心地よく、次はゆっくりと優しく、その床を踏みしめたくなる。

目で雑貨を楽しむだけでなく、ゆったりとした時間に包まれているようで、心の奥からぽかぽかとする。私はこの店で流れている空気が大好きだ。

小樽には歴史的な建物がたくさんある。昔の形のまま大切に保存されているものもあれば、形を変えて、現代の風景に溶け込んでいるものもある。そこには、都会や喧噪の中には感じられない、ゆったりとして心地の良い時間が流れている。

新しいものに囲まれて、せわしない日常にちょっと疲れてしまったとき、なつかしいあたたかさが恋しくなった時、小樽の町はきっとあなたを優しく包み込んでくれるはずだ。

初めて購入したのはビンテージの小さなガラスの小瓶。そのまま飾ったり、お花を挿したりして今でも使っている。少し古びたこの小瓶は、あの雑貨屋さんのように、そして小樽の町のように、どこか懐かしい優しさで、いつも私を包んでくれる。

(フウカ)


※本記事の内容は2020年6月時点の情報に基づいたものです。

写真:眞柄 利香