坂とともに暮らす人々

 小樽商科大学入学をきっかけに、小樽で一人暮らしを始めた。
 高校まで札幌で暮らしていた私にとっては、外に出れば海や山が間近に見えるというのは、新しい感覚であり驚きだ。

 しかし、海と山を大きく凌ぐほど驚くのは、とてつもない傾斜の坂だ。毎日、小樽商大までの通学路である“地獄坂”という坂を上っているが、つらい。とにかくつらい。みんなよく涼しい顔をして上っているなと感心する。

 元から小樽に暮らしていた人は大変ではないのか?もうこんな坂は慣れてしまったのだろうか?地獄坂を大学生に負けないほどしっかりと上っていくおじいちゃんやおばあちゃんを見て毎日そんな疑問を抱いている。

 小樽に引っ越してきてからときどき家の近所を散歩する。実家の周りとは違う風景に慣れるためだ。
 私の家は稲穂だが、大学とは逆方向の石山町や錦町の方面に行く。石山町にはとてつもない坂がある。地獄坂の倍は傾斜があるような坂だ。辛いのを承知で私はなぜかその坂を上る。
 この記事を書こうとして、グーグルマップを見たときに知ったのだが、私がただの坂だと思っていたものは荒巻山という山らしい。あっ、自分は山登りしていたのだと気づき、また驚く。

 荒巻山の坂にはいくつもの家が建っている。とてつもない傾斜の坂の上に建っているので家は傾いて見えるし、車もサイドブレーキをかけてないと落ちてしまいそうだ。
 どうしてこんなところに住んでいる人がいるのだろう?どんな暮らしをしているのだろう?散歩をしているだけなのにいろいろ想像してしまう。

 毎日この坂を上ったり下ったりしているのだろうか?だとしたら心も体も強い人々なのだろうな。と、勝手にそこに暮らす人々の事まで考えてしまう。
 きっとそれぞれ理由があってそこに住み、それぞれの暮らしがある。そういったことをただ散歩している人が感じることができる。
 小樽はそういう街なのだ。

(り)


※本記事の内容は2019年7月時点の情報に基づいたものです。