色あせない花

「きれいだね、これが“さくら”。このお花はね、春を連れてきてくれるのよ。」

おおきな木の枝の先をピンク色に染めている花を、母の腕に抱かれ、見上げていた。
物心ついてすぐに、祖母からプレゼントされたお気に入りのワンピースには、かわいらしいさくらの模様がプリントされていた。

「こんなに大好きなお花だもの、本当の、良い香りのするお花を見にいこうね。」
こんな祖母の提案で、両親と祖父母、私での小旅行で連れられてきたのが、小樽公園だった。

はじめて見るさくら。私はうれしくて、うれしくて、飛び跳ねていた。
母の腕がいたくなってもまだ、ずっと近くでさくらを見て、触れていた。当時の私には、母のだっこなしでは、木に咲くさくらに手が届かなかったのだ。

少し飽きて、公園をぐるりと散策していると坂があり、その坂を上がると、海が見えた。
春のさくらが満開のシーズンだったので、見下ろす街には水彩絵の具をたらしたように、ところどころにピンクの模様が見えた。
このピンクと海の深い青、空の水色のコントラストをよく覚えている。

小樽公園は、JR小樽駅から徒歩15分。毎年5月中旬から下旬にかけて、エゾヤマザクラやソメイヨシノなど、約900本の木が色を付ける。
その他にも、鮮やかなピンクが印象的なツツジも咲き誇り、多くの小樽市民や観光客に愛されている。

当時は、小さな遊園地も併設されており、父と遊具ではしゃいで、祖父母が遠くから見守っていたのを鮮明に覚えている。

そんな遠い昔にみたさくらは、大学生になり、母にだっこされなくとも十分にさくらに届くようになったわたしが見ても、変わらずに美しかった。
さくらは当時の記憶を鮮明に呼び起こし、懐かしさのあまり涙が出てきてしまった。

さくらの木を背に、両親、祖父母とお弁当を広げていた場所で、わたしは、友人達と花見をしていた。
さくらのワンピースを着て、いちごジュースを飲んでいた少女は、今では大人びたアンティーク調のさくらのロングワンピースを身につけ、ほろよいを片手に春を楽しんでいた。

こんなにも時を経て、なお感じられる懐かしさとやさしさは、小樽公園が与えてくれるのである。

(うみうし)


※本記事の内容は2016年7月時点の情報に基づいたものです。