和風れすとらん銭函大山
先日は父の三十三回忌法要だった。
父は、32年前に56歳で亡くなった。僕が25歳の時だった。
あの頃の僕には分からなかったが、僕が父の亡くなった歳を追い越した今になって、父がいかに若くして亡くなったかを実感する。
父は、僕が結婚したことも、父にとっての孫がふたりいることも、父が3か月しか住むことができなかった新築の家を2世代住宅に改築したことも、父の孫たちは既に成人し社会人になっていることも、何も知らないのだ。
父にとっての僕は、一浪一留でようやく就職した社会人1年生のバカ息子のまま、時間が止まっているはずだ。
32年は長い。
三十三回忌法要は、家族と、日頃から親しくしてもらっている親戚とで、家にある仏壇の前でこぢんまりと行うことにした。
それでも、法要が終わった後はお昼にちょっとした食事をしたい。僕は札幌の手稲に住んでいるので、その付近でいいお店はないかと探し始めた。だけど、どうもピンとこない。
そういえば、父は海釣りが好きだった。子供の頃、小樽港に釣りに連れて行ってもらったこともある。
そう考えると、海の近くにあるお店がふさわしい気がした。
そこで銭函を探し、「和風れすとらん大山」というお店を見つけた。
見た目も評判もすこぶる良い。
が、ネットで調べただけだったので、「下見」と称して家族で食事に行った。
着いてお店の前に立った瞬間、日本風ながらも新しく綺麗な外観に一発で気に入った。お店の中も上品な感じで雰囲気が良く、料理も素晴らしかったので早速お願いした。
当日は法要の食事でコース料理だった。そのどれをとっても美味しい。加えて品数も多く「まだ出てくるのか」というほど次から次と料理が出てくる。
予約する時に、母が「料理が足りなかったらどうしよう」と心配していたが、その本人が食べきれず何品かをお持ち帰りしたくらいである。
すっかり満足して家へ帰り、これから家で夕食と称した飲み会が始まるはずだったが、誰もお腹が空かないものだから、なかなか始まらない。
みんなでまったりとした時間を過ごしながら、ふと仏壇の上の父の遺影を見た時、
「お前ら、俺を差しおいて、なに美味い物食ってんのよ」
と言っている声が聞こえた気がした。
(みょうてん)