錦台

 小樽で海の見える景色を探すのは簡単なことだ。
 どこがお勧めかと聞かれても、多くあるため答えるのが逆に難しいくらいである。少し坂を登ると振り向けば海が見える。祝津や天狗山など観光で訪れるところではなくても、住宅街からでも近くに海と街の両方が見える絶景が広がっているのが小樽に住む人にとっては当たり前となっているが、実はなかなか珍しいことではないかと私は思う。

 

 私の父は小樽生まれの小樽育ち、現在は小樽を離れているがために、懐かしんで小樽の風景を写真に撮るのが趣味である。そんな父がよい風景が撮れるところはないか、となんとなく歩いて見つけたのが、「錦台入口」と書かれた看板だった。場所は違うが、手宮公園から見える景色をヒントに探したそうだ。

 私も幼少期と大学四年間を小樽で過ごしたため、父から錦台の話を聞き、どういった景色が見えるのか興味があった。そして錦台という住所は小樽にはなく、その地名を初めて聞いたため、どのようなところか気になっていた。錦台という名前から、場所は錦町あたりだろうかと勝手に思っていた。父によると、錦町ではなく稲穂五丁目、色内小学校付近から長橋に抜ける道の途中とのことだった。

 

 父から話を聞いた後すぐに、大学時代の友人と錦台を訪れてみた。今から15年くらい前のことだ。色内小学校付近ということ、錦台という看板があるということ以外のその他の情報の詳細を聞かなくても、この看板は住宅街の中では目立つもので、すぐに見つけることができた。

 看板から坂を登り、角を曲がると緑地のような場所があり、そこには小樽駅周辺とその後ろに海の見える風景があった。ちょうど薄暮時で空は綺麗な青紫色、言葉では表せないほど幻想的な小樽に見えた。

 

 初めて錦台を訪れてから15年ほど経った現在、再び錦台を思い出し、なんとなく訪れてみた。当時のままの「錦台入口」と書かれた、古く、夜に見ると多少おどろおどろしくも見える看板があり、ほっとしている自分がいた。

 ここから見える当時の風景を写真に収めていなかったため、15年前どのような風景だったのか詳細まではわからないが、駅前のサンビル(第三ビル)の建て替えなど、15年前と現在とでは変わっているのは明らかであった。

 

 さて、この「錦台入口」と書かれた看板、具体的に一体どこへつながる入口を指しているのだろうか。私が行った景色が見える緑地のようなところを指すのか、それとも錦台と呼ばれていたこの地区全体のことを指して「入口」と書かれているのだろうか。看板のすぐ後ろには昭和五年に建てられたと書かれた石碑がある。そして、なぜ稲穂五丁目周辺が錦台と呼ばれていたのか(現在も呼ばれているのかもしれないがわからない)大変興味深く、知りたいことばかりである。

(hiroe)