朝里
札幌・小樽間のJRでの所要時間は、快速で32分、各駅停車で45分である。
これはもう十分通勤通学の圏内である。
快速で32分、実に近い。
これが東京であれば、32分間ずーっと同じような都会の景色が続くのであろう。
しかし、札幌・小樽間はちょっと違う。
札幌から小樽に向かうと、小樽市に入って最初に停まるのが「銭函駅」である。
高倉健主演映画「駅STATION」の舞台となった駅である。
その駅舎、みごとに「昭和」である。
あの映画の頃とほとんど変わらない。
そして銭函を出発すると、進行方向の右側に海が見えてくる。
日本海である。
晴れた日の日本海は素晴らしいが、荒天の時の荒れた海を見るのもいい。
そこは演歌の世界である。
やがてトンネルに入り、そのトンネルを抜けると、まもなく「朝里駅」に着く。
僕はこの朝里駅こそが、札幌・小樽間の哀愁度№1だと思う。
朝里は、スキー場や温泉で有名だけれども、朝里駅を見る限りその気配は全くない。
ひと気のない、本当に小さな古い木造の、無人の駅舎がポツンとあるだけである。
駅前の道も車がすれ違うのがやっとの細い道が線路に沿って一本あるだけである。
そして、その駅前には、「シグナル食堂」という実に年季の入ったお店がある。
夏になれば、つぶ焼きや昔ながらの味噌おでんを食べることができる。
また、駅前の道を札幌方面に向かってほんの少し歩くと、「あさり屋」という押し寿司のお店が見えてくる。
最近知った、僕のお気に入りの店である。
「燻製棒寿司」というちょっと変わったお寿司であり、さば、さんま、サーモン、ほたてを燻製にしたものを使った押し寿司である。
当然、燻製は自家製であり、また、注文してから押し寿司を作るので、出来上がるのに少々時間がかかる。
その間、お店の窓から海を眺めるもよし、気さくなご主人や奥さんとお話をするもよし。
僕は、昔1年間だけ札幌小樽間を通学で使っていた。
そして、銭函から朝里にかけて見えるきれいな海と、哀愁のある駅舎がたまらなく好きだった。
毎日眺めても飽きなかった。
嫌な気分になった日も、これらの風景が僕を助けてくれた。
それは、実に「贅沢」な通学だったような気がする。
(みょうてん)