大国屋デパート
小樽には三軒のデパートがあった。元小樽グランドホテルの場所にあったニューギンこと「ニューギンザ」、札幌の老舗百貨店、丸井さんこと「丸井今井小樽店」、そして写真の「大国屋」である。ここには現在、オーセントホテルが建っている。
この三つのデパートはすべて稲穂第一大通りに面した、ご近所さんであった。また、三店会という同業組織を作り社員間の交流もあったと聞く。
大国屋は1934年(昭和9年)創業の、小樽で最初のデパートであった。惜しまれつつ1993年(平成5年)4月で閉店するわけであるが、このデパートには、読者のみなさんもいろいろな思い出があるのでは。
昭和40年前後、どこのデパート屋上にも、子供用のミニ遊園地があった。小樽の三軒にもあったようだが、私の記憶にはない。
最上階の5階にはテアトルダイヤという洋画専門の映画館があった。ここには、一度だけ入った記憶がある。
私は、その映画館に上がる階段の下にあった、切手・コインショップがお気に入りだった。私の世代は切手小僧がたくさんいた。記念切手が発売されると、われ先にと近所の特定郵便局に買いに行った。学校に切手帳を持ち寄り、見せ合い、交換しあったものだった。
「おれ、この切手じいちゃんからもらったさ」
「おれは全部で○○枚も持っているぞ」
「おれんちには、見返り美人あるぞ」
「おれのおじさんだって、月に雁持ってるさ」
まあ、子どもの切手持ち物自慢は止まらない。仕舞いには、遠い遠い親戚まで出てくることもあった。
この店に行くと、高価な切手がウインドケース越しに見ることができた。前述の切手趣味週間シリーズ「見返り美人」「月に雁」「市川蝦蔵」「ビードロを吹く娘」などを見ながら、小遣いで買える範囲の物を何時間も物色し、眺めていた。
大国屋はなんといっても、海側正面玄関右側にあった、創業当時昭和9年製のエレベーターが名物であった。私の中学校の同期生S嬢が、高校卒業後エレベーターガールをやっていた。大事に使われ、最後の営業まで動いていたとS嬢は教えてくれたが、あの蛇腹ドアが懐かしい。松田ビルにも、昭和12年創建のエレベーターがあるが、残念なことに動いてはいない。
大国屋も忘却の彼方なり・・・の今日この頃である。
(斎藤 仁)
写真:小樽昭和ノスタルジー(ぶらんとマガジン社刊、15ページ下)