一番
30年前、僕が学生だった頃の話。
ある日、友人に
「お前、『一番』っていうラーメン屋知ってるか?」
と聞かれた。
僕が知らないと答えると、
「一度行ってみ、ビックリするから。だけどお前、初心者は醤油にしろ。味噌は危険すぎる。」
と言う。
「危険すぎる味噌ラーメンとはなんだ?」
僕は興味津々、行ってみた。
その頃の「一番」は、小樽駅そばの中央市場に沿った小道を入ったとこにあり、お世辞にも「きれい」とは言えない、かなり年季の入った店だった。
店に入り、僕は友人の忠告を聞かず、いきなり味噌ラーメンを頼んだ。
ビックリした。
スープが超濃厚で、トロっとしたとろみがある。
なもんだから、麺に非常によく絡まり、箸で持ち上げると重たい。
こんなラーメン、見たことない。
「なんなんだ、このラーメンは!」
食べてみると、全く経験のない味で脳天にガツンときた。
まあ、今でいうトンコツの超コッテリ味噌ラーメンなんだけど、その頃、そういうラーメンを食べさせてくれる店はなかった。
僕は一口食べて大ファンになってしまった。
が、僕が住んでいたところから遠かったため、実はあまり行くことはなかった。
しかし、夏休みのアルバイトの現場が、なんと、「一番」のすぐそばだった。
しかも肉体労働で、毎日、汗まみれ。
当然、体がコッテリしたものを欲しがる。
真夏の炎天下の中、毎日通った。
最初は後輩を誘って行っていた。
が、僕があまりにも毎日行くもんだから、
「えっ、またですか!」
ってな感じで愛想を尽かされ、最後はひとりで通った。
全然飽きなかった。
しかし、バイトの終了とともに、再び遠のいてしまった。
今では、北海道ラーメンの主流とも言えるくらいになったトンコツのコッテリラーメン。
僕は、この「一番」と札幌の「純連」が、その先駆けでないかと思っている。
最近は、小樽でもいろいろな個性的なラーメンを食べさせてくれるお店も増えた。
ラーメン好きにとっては、いい時代になったなあって思う。
・・・個人的には、今、朝里方面が熱いです。
(今回の寄稿に際して調べているうちに、一番の創業者であったご主人が昨年10月に亡くなられたことを知りました。ご冥福をお祈りいたします。「あの頃」がまた遠のいてしまった気がします。)
(みょうてん)