ぬきと日本酒
10 数年前、大学の後輩の結婚式に参列するため、小樽に行った。
その後輩に会うのも、大学時代の仲間に会うのも久しぶりだ。
実は、その後輩は再婚である。
なので、僕ら仲間が彼の結婚式に参列するのは、
これで2 回目である。
結婚式も無事終わり、披露宴が始まった。
和やかな雰囲気で宴が進む中、
後輩のおふくろさんが、僕らのテーブルに来てくれた。
そして、ビールをつぎながらこう挨拶した。
「すいませんねえ、何度も」
これには爆笑した。
僕らのつながりが深く、
おふくろさんもそれを知っているからこその挨拶だと思った。
披露宴も無事に終わり、それじゃあ二次会だと外に出たが、
昼間の披露宴だったため、陽はまだ高かった。
仲間とも久しぶりに会ったことだし、当然のごとく、
「もう少し飲むか」
となった。
だけど、この時間じゃまだ居酒屋など開いていない。
それじゃあと、入ったのが「籔半」だった。
小樽ではあまりも有名な老舗の蕎麦屋である。
古き良き時代の面影を残した店構え、
もうそれだけでも十分素晴らしい。
小樽に住んでいた30 年前の学生時代にも来たことはあった。
だけど、貧乏学生が籔半で酒を飲むことはなかった。
今は、あの頃より、若干ほんの少しだけ余裕はある。
店の奥の一段高いところにある昭和の香りが漂う座敷に座り、
僕らは「ぬき」と日本酒を頼んだ。
「ぬき」を肴に日本酒をチビリ。
まったり、ゆったりした時間が流れる。
普段は馬鹿話をして騒ぐはずが、今日はすっかりおとなしい。
大した会話もない。
だけど、それが気持ちいい。
そうやって、ぼんやりと仲間の顔を眺めていたら、
段々、今がいつなのか、自分が何歳なのか、
分からなくなってきた。
このまま店を出たら、みんなで坂を上り、
あのオンボロアパートに帰っていくような気がする。
海の見えるあの坂を上って、いつものように・・・
あれから数十年の時が流れ、
みんな、それ相応の苦労もしてきたことだろう。
だけど、今だけはそれを忘れよう。
いい時間だ。
しかし・・・・
3回目はないことを祈る。
(みょうてん)