坂道の花
これは、春から商大生となり、10年ぶりくらいの小樽来訪となった私が、初めて小樽で撮った写真である。
小樽の代表的な観光地である運河でもなく、たくさんあるお菓子屋さんでもなく、急な地獄坂でもなく。とある場所で、春に咲く色とりどりのチューリップである。
なんとも配色が可愛らしく、良い天気にも恵まれたそれは、春の到来を喜べるお気に入りの一枚だ。
このチューリップに見覚えのある商大生や小樽市に住む人は少なくないと思う。この花の咲く花壇は、コープのある三叉路の車道の近くにある。
まだ小樽商科大学に入学して一ヶ月も経たない頃、札幌育ちで今まで経験したこともなかった坂道を下る途中に見つけた。
あまりにも綺麗だったので、思わず立ち止まって写真を撮った。誰かにお世話されているところを見たことはないが、長い間咲いていたので、坂道を歩く多くの人の目を楽しませたはずだ。
このチューリップが枯れてしまったあと、今度は小ぶりのラベンダーが花壇を一面覆っていた。チューリップのような華はないが、人工物にはない優しい紫色をしていて心が和んだ記憶がある。
小樽の坂道にはたくさんの花が植えられている印象がある。特に商大から小樽駅の間の坂道のいたるところに、初めて見るような名も知らない花々が咲いていたりする。
他にも坂の途中で、赤いバラの咲き乱れた贅沢な庭を持つ家も見たことがあるし、玄関先を植木鉢でいっぱいにする家の前を通ったことがある。
生活感ある暮らしの空間の中に突然顔を出した鮮やかな色合いは、私の中では少し意外であった。そして時間が経つにつれて少しずつ変化する花々の様子を見に行くのが楽しみになってきた。
上るのも下るのも、車で移動するにも大変な坂の道。少しでも目を楽しませ、通行人の癒しとなるよう植えられたのかもしれない。
たまには自分の歩いてる坂道も足下を見てみると、普段は気づけない優しさを見つけられるのでは。
(an)