ほっ
「ほっ」とするのはそういうことか、と、私は思った。
この日は、母からの「小樽のお菓子が食べたい」というリクエストを受けて、観光客がワイワイいるところまで、お菓子を買いに行くことになった。昔から、私は人がたくさんいるところが苦手なので、あまり乗り気ではなかった。
さすが観光地だ、にぎやかで楽しそうな声があちこちから聞こえてくる。
特に、外国人観光客が多く、日本語が全く聞こえてこなくて、海外と勘違いしてしまいそうだ。人が次から次へとせわしなく押し寄せてくるのが、なんだか怖い。
やっとお店についたと思ったが、やはり店内も人でごった返している。そして、母が食べたがっていたお菓子を見つけた。まぁ、レジは言うまでもなく・・・。早く帰りたいなぁ、と思いながら待ち続ける。
帰り道。観光地を抜けると、さっきまでの騒々しさが嘘のように、ゆったりとした時間が流れる。どっと疲れが出たような気分だ。
ふと、いい匂いがして目をやると、そこには、たい焼き屋さんがあった。お菓子を買いに向かっているときは気づかなかったようだ。看板には「期間限定100円!」の文字。疲れていたのもあって、甘いもの欲しさに、迷いなくお店に入った。電車の時間もあるので、駅に向かいながら食べることにした。ちなみに、私はあんこよりクリーム派だ。
さっそくひとくち。
さくっ、ふわぁ…とろぉ~り。
思っていたよりあつあつで、さくっとした生地の触感。割れた瞬間に漂うクリームの甘ったるい匂い。とろとろなクリームがまとわりついてきて火傷しそうだ。ほおばりつつ、駅に向かって歩いていく。風の音の中に、雪を踏む私の足音が聞こえてくる。
ざく、ざく、ざく、・・・
なんだか、「ほっ」とする。こんなに寒い日なのに。たい焼きを食べているせいだろうか。さっきまで、心が落ち着かなかったのにどうしてだろう。そのとき、ぼんやり思った。
そっか、小樽はどんな人にも寄り添ってくれるんだ。
「ほっ」とするのはそういうことか、と、私は思った。
だれでも「ほっ」とあったかい気持ちにしてくれるこの小樽に、ぜひ来てみてほしい。
(よしよし)