小樽の坂と入学式
小樽商科大学に通っていると、地獄坂という名前は何度も耳にするだろう。JR小樽駅から商大へ歩いて向かうとき、そこに立ちはだかる長い坂道の名前だ。
地獄という名前ほどには凄まじい坂というわけではないのだが、しかし結構な距離がある。小樽駅から大学まで歩いて向かおうとすると、延々と続く坂道に汗を流すことになるのだ。
私はこの坂を歩いて登っているとき、時折数年前のことを思い出す。それは商大の入学式の日のことだ。
私はこれからの大学生活への期待に胸を膨らませ、新品のスーツに身を包み、登校していた。
さて無事小樽駅には着いたものの、どうやって学校まで行こうか考えた。バスもタクシーもあったが、不慣れな土地で勝手がわからない。ならば道も分かっていることだし、一番確実な方法で歩いていくことにしたのだ。
四月といえば、小樽ではまだ道に雪が残っている。そしてその日は、不運にも道が凍っていたのだ。平地ではいい。札幌でも凍った道は歩きなれているからだ。しかし、小樽の坂道を私は舐めていた。
滑る、滑る。今日が受験の日でなくて良かったと、心の底から思ったものだ。せっかくの晴れ着だ、転ぶわけにはいかない。
私はそれだけを心に、この傾斜10%の坂をよちよちと登ったのだ。まったく、幸先不安なものである。
さて、懐かしいあの日からもう三年が経った。今ではもうこの坂道にも慣れたものだ。転びにくい歩き方だって会得した。
しかしまあ、なぜこんな不便な場所に学校を建てたのだという気持ちは、今でもある。もっと下の、駅の近くにでも建ててくれれば良かったじゃないか。いくら慣れたとはいえ、疲れるものは疲れる。
けれど、三年前のことでさえ、今ではしみじみと思い出すのだ。きっといつか、この憎らしい坂道を登ってきた大学四年間を、懐かしく思う日も来るのだろう。不便だからこそ、思い出になる。そんなことだってあるはずだ。
(くまはじ)