小樽シオン教会

国道5号線から小樽商大へ上る坂に入ると、ガードをくぐってすぐ右手に、小樽シオン教会があります。創立から120年以上経つ、歴史ある教会です。

昨年の秋のある日、この教会で映画のワンシーンの撮影が行われました。
小樽ゆかりのプロレタリア作家小林多喜二の母セキを描いた、三浦綾子さんの著作「母」を映画化した作品です。

監督は、長年「人に尽くす」ことを撮り続けてきた現代ぷろだくしょんの山田火砂子さん、主役のセキ役を寺島しのぶさん、多喜二役を塩谷瞬さん、セキの夫役を渡辺いっけいさんが演じています。

ご存知のとおり、小林多喜二は、小樽の北海道拓殖銀行で働きながら小説を書いていましたが、その小説の内容から危険分子とみなされ、銀行を辞職して、東京に行った後、特高警察の拷問によって非業の死を遂げます。その多喜二を、小樽でパン屋を営みながら育てたのがセキです。小樽の海のように広く優しい心を持つセキは、子どもの言うこと、することを、心から信じ続け、無条件の愛を子どもに与え続けました。

晩年のセキは小樽シオン教会を拠り所にしていたそうで、亡くなった時もこの教会で葬儀が行われました。セキは何十年経っても息子の死を受け入れられず苦しみ、悪いことをしていないのに殺されたキリストの話を教会で聞き、その様を多喜二に重ねます。

先日映画を鑑賞しました。
セキの優しく強い人柄を見事に表現した寺島しのぶさんの素晴らしい演技と、多喜二の信念を貫き通す姿に、とても感動しました。
また、随所に小樽の地名が出てきて、一昔前の小樽に思いを馳せながら見ることができました。自分に身近な地の話であることで、小林多喜二の虐殺事件は、決して遠い話ではないのだと感じました。

監督の山田さんは84歳で、13歳まで軍国主義だった日本を経験しています。その立場から、「戦争を二度としない平和な日本を」と祈って作った作品だそうです。

今年の多喜二忌は過ぎてしまいましたが、小樽にあるお墓をいつかお参りしたいと思いました。

(川)