源平

genpei

小樽の魅力のひとつは、繁華街が適度にコンパクトであることだと思っている。

まだ運河が整備されていない30数年程前であれば、小樽駅近辺から花園周辺まで歩けば、小樽の繁華街はほぼ網羅できた。
そして、これが当時の男子学生にとってはちょっとばかし好都合であった。

お気に入りの女の子を誘いやすいのだ。

大学からの帰り道、「たまたま偶然」を装い一緒に歩いて坂を下りると、おのずと国道5号線に出てしまう。
そして、そこはもう繁華街である。

だもの、
「ねえ、ちょっとお茶しない」
とか
「ねえ、飯食うの付きあってくれない」
などとは大変言いやすい。

だって、「たまたま偶然」一緒に帰っただけなんだも。

すべて聞いた話であるけれども、そうやってデートにこぎつけた奴は多いはずだ。

 

だけど、南小樽駅近くにあるお好み焼き屋の名店「源平」に行くとなるとそうはいかない。
「偶然」を装って誘うには遠すぎるからだ。

だから、「源平に行こう」と誘うには勇気がいる。
告白してるのと同じだからだ。

「うーん、また今度ね」
などと言われたら、それはもうフラれたも同然である。

だから、名店「源平」に行くというのは、友達以上になれるかどうかの試金石になるのだ。

・・・すいません、これはすべて私の勝手な思いです。

だけど、そうやって、ドキドキしながらその当時の彼女と行った「源平」のことは、昨日のことのように覚えている。

そして最近、その「源平」が未だ健在であることを知った。
卒業して以来、一度も行っていない。
これではいけないと、先日、30数年振りにお邪魔させていただいた。

石倉を改造したお店はあの当時のまま。
威勢のよかったおじさんも、何も変わらず元気満々だった。

僕は、すっかりうれしくなり、
「おたるくらしに源平さんを紹介させて欲しい」
とお願いし、快諾してもらった。
そして、お好み焼きを焼いてもらいながら、おじさんの小樽に対する熱い思いも聞かせていただいた。

・・・ここにも熱い小樽人がいた。

おじさんは今年で79才。
まだまだ元気です。

 

いっぱいお話をさせていただきながら、食べたお好みはあの当時のままだった。
もう懐かしくて、涙が出そうになった。

そして、当然ながら焼うどんを追加。
油の代わりにマヨネーズ、ソースの代わりに醤油を使う。
これはもうこのまま我が家の定番になっている。

 

帰り際、お店の写真を撮る時、お願いしておじさんにも入ってもらった。
そして、写真を撮りながら、
「いつまでも元気で続けてください」
そう、思った。

 

ちなみに、僕はこの原稿で思わず「その当時の彼女」のことを書いてしまったが、その彼女は今では我が家で慣れた手つきで焼きうどんを作っている。
だから、何も問題はないのだ。

 

(みょうてん)