優しさの原点

 繁栄、衰退を繰り返した名残。

 すっと一歩踏み出せば、それらの偉大さと暖かさ、優しさに触れることができる。そんな小樽を、小樽運河は優しく見守ってきた。

 小樽運河は約100年前、大正12年につくられた。当時、船による荷物運搬の用途で北海道と本州の架け橋として活躍した。

 その役割を終えた後も、夜景が綺麗な観光スポットとして活躍した。きらきらにライトアップされた夜の小樽運河は、幻想的な光景をわたしたちに見せてくれる。
 そうやって、姿形を変えながらも、昔から現在まで小樽を支えてきたのだ。

 そんな小樽運河とわたしの出会いは、意外にも最近だ。
 わたしは数ヶ月前、大学受験前日の夜、気分転換に小樽を散歩した。緊張でぎこちなく歩くわたしの目の前に、彼は姿を表した。

 ライトアップはされていなかった。観光客が満足するような風景ではなかったと思う。それなのに、心を動かされた。
 彼が背中に背負っているものに気づいたからだ。同時に、元気をもらった。自然と緊張はなくなり、わたしは帰路に着いた。

 彼には、多くの人が関わってきた。漁業に携わる人、埋め立ての危機から守ってきた人、観光地として復興させてきた人。いろんな人達の思いを、彼は背負い続けているのだ。そして、背負い続けているからこそ、優しい特別な力を持っている。

 人やもの、場所に勇気や希望を与える、そんな力。それを、あの時わたしに分けてくれたのだ。

 わたしだけではない。小樽にいる全ての人たちに分けてくれている。小樽ではおじいちゃん、おばあちゃんをよく見かける。はちゃめちゃに元気だ。きっと、彼のおかげで元気なのだろう。そう思えるほどに、わたしは彼の力が特別に感じた。

 小樽には、彼のように、いろんな思いを背負った建物がいたるところにある。彼らはずっと、見守ってきた。だからここは、ぽかぽかする優しさに溢れている。

 すでに私もこの町の一員。なんだか力が湧いてきた。

(タクミ)


※本記事の内容は2022年7月時点の情報に基づいたものです。

写真:眞柄 利香