小樽駅から見下ろす青色
小樽駅前からの眺めが好きだ。
私は、この春小樽商科大学に入学した。そして、小樽での一人暮らしが始まった。海のない街で育った私は、小樽に来てすぐ、小樽駅を出て一歩目、海を一望できるあの景色に一瞬で取り込まれてしまった。
一直線、ゆるやかな下り坂の先に真っ青な海が見える。そして、それに続くように青い空が広がる。
その下り坂の名は中央通りであり、その先に見える港は小樽港である。小樽には数多くの坂があるが、この中央通りも勾配こそ厳しくはないものの、立派な坂である。そして、観光に来た人々が運河方面に下るために多く通る最もメジャーな坂なのではないだろうか。
晴れた日の昼間には一面の鮮やかな青、そして夕方にはセピア色に街と海がキラキラ輝く、時間によって表情を変える眺めだ。
小樽という土地で暮らし始めて数か月、最初は海を見て、新鮮な気持ちを持っていた私だが、最近は安心感を覚えている。朝、カモメの鳴き声で起きる日もある。街にいる鳥といえばカラスかハトだった私にとって、そこに新しく加わったカモメの声は「海のある街に住んでいるのだなあ」という実感を最も頻繁に、そして大きく与える存在だ。船の汽笛が部屋の中まで聞こえる日もある。汽笛で目覚める朝も、なかなか気持ちいい。
新鮮だった海は、いつのまにか当たり前、そして生活の一部となっている。だけど、小樽駅前からの景色は、そんな安心感とともに、最初に小樽に来た時の不安と、緊張と、これからへの期待が入り混じったはじまりの気持ちを想起させる、私にとって特別な景色なのだ。
そんな小樽駅からの景色は、誰が見ても変わらぬものである。しかし、その時に抱いていた気持ち、一緒にその景色を見た人、季節、どんな目的でこの駅に降り立ち、あの海を見下ろしたのか。それは一人一人全く異なるものなのである。
あなたは、小樽駅を出て、あの海を見下ろすとき、どんな気持ちを思い起こしますか?
(たなか)
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※本記事の内容は2021年7月時点の情報に基づいたものです。
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写真:眞柄 利香