小樽で硝子の想い出を
中学校1年生の夏、父親と二人で小樽旅行をした。普段は単身赴任で本州に住んでいるため、一年に数日会えるかどうかという存在の父である。
そんな父と最初に訪れたのが『小樽浪漫館』だった。このお店は明治期に銀行だった建物を再利用したもので、レトロで懐かしい雰囲気を持っている。
そんなお店の入り口をくぐると、たくさんのアクセサリーやガラス雑貨が目に飛び込んできた。それらはシャンデリアのオレンジがかった暖かな光に照らされて上品に輝いていた。
その光景に目を輝かせていた私に向かって父は、「好きなものを一つ選んでいいよ。」と言ってくれたのだ。とても嬉しかった。店内をじっくりと見て回り、自分のための1つを探す時間はまるで宝探しのようだった。
数個に候補を絞ったとき、どれも素敵に見えて自分では選ぶことができなくなってしまった。そこで、最後は父に選んでもらうことにしたのである。父は少し迷ったものの、すぐに「これが一番似合うと思う。」といって1組のイヤリングを手渡してくれた。透き通った青のグラデーションがとても素敵な、小樽硝子の作品だった。私はそれを買ってもらうことに決めた。さらに父のネックレスも買うことになった。
お会計を済ませてお店を出た後、私と父はすぐにそのアクセサリーをつけ、そのまま一日中、小樽を巡った。当時中学生だった私は、普段はつけないイヤリングをつけることで、少し大人になったような気分になったのを覚えている。今でもそのイヤリングを見るたびに、旅行の想い出がふわっとよみがえってくる。
小樽硝子のキラキラとした輝きは、晴れた日の小樽運河の輝きに似ている。旅の最初に硝子アクセサリーを買い、小樽の海風に吹かれながら残りの旅を楽しむ。帰ってからそれを外した時、「たのしかったなぁ」と旅を振り返る瞬間が訪れる。アクセサリーの中に旅の想い出が詰まっている感覚がある。他のものとは違う、想い出という特別な価値をもつ。
友人とお揃いで買ったり、恋人に選んでもらったり、家族にプレゼントしてもらったり、はたまた自分自身への小さなご褒美として買うのでもいい。小樽はどんな人でも受け入れてくれるまちである。そして、ものと一緒に深い思い出をプレゼントしてくれるまちなのである。
(すみっこ。)
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※本記事の内容は2021年7月時点の情報に基づいたものです。
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写真:眞柄 利香