小樽酒商たかの

僕の大学時代の友人で、大の日本酒好きの奴がいる。そいつが、仕事で青森の弘前に転勤になり、そこで知ったのが「豊盃」というお酒だった。

その後、彼は江別に戻って来たのだが、あの豊盃の美味しさを忘れられず、どこで買えるか探したという。
が、豊盃は特約店でしか売っておらず、札幌にも売っているお店がなかった。

したっけ、ついに売っているお店を見つけた。

「小樽酒商たかの」

なんと、小樽の酒屋さんに売っていた。
それを知った彼は、江別から小樽まで買いに来たという。

そんなことを自慢げに僕に話すもんだから、酒好きの僕としても黙ってられない。
行きましたよ、札幌から小樽酒商たかのさんへ。

僕が行った時はちょうどタイミングがよく、年に1回しか入荷しないという「純米大吟醸生おりがらみ」が売っていた。

早速、四合瓶を持ちレジへ行った。レジには店主である高野さんがいて、僕は
「これ、おいしいですか」
と、少々失礼なことを聞いてしまった。
したっけ、高野さんは
「旨いよー、俺なんかすぐ飲んじまう」
と、答えた。

百戦錬磨の酒屋の店主がすぐ飲んじまうほどのお酒である。
僕は「ちょっと待って」と言って、一升瓶に持ち替えて買った。

そして、それから10日後、再び小樽に行ってしまった。
だって、すぐ飲んじまったんだも。
すんげー旨いんだも。

それにしても、特約店でしか売らないこんな貴重なお酒を、小樽のこのお店でなぜ売っているんだろう。
不思議に思って、高野さんに聞いてみた。

「それはさ、蔵元に13年通ったからさ」

酒好きが高じて酒屋を開いてしまったと笑う高野さん。
その高野さんが弘前で知って惚れ込んだのが「豊盃」。
この「豊盃」を、ぜひとも小樽の人に飲んでほしい。
そう思って弘前の酒蔵に通い、断られること12年。
なんと、干支が一周している。
そして、13年目にしてようやく売ることを許してくれたとのこと。

酒蔵さんの頑固さも素晴らしいし、それにくじけることなく13年も通い続けた高野さんも素晴らしい。
そのおかげで、今、僕はこうして日本の中でもなかなか手に入らない弘前の最高に旨い銘酒を飲むことができる。
飲み干したら、また「小樽酒商たかの」へ行けばよい。

「自分の大好きなお酒を買いに小樽へ行く」
何ともロマンのある話だなあ、貴重な豊盃をチビリと舐めながら、そう思った。

(みょうてん)