みどり屋
今年の2月は義母の一周忌である。
義母は小樽に生まれ、小樽で育ち、そして去年、小樽で亡くなった。
89年の生涯であった。
子供の頃は、あの石原兄弟と遊んでいたという。
「兄さんは優しかったけど、弟はヤンチャだった」
とよく言っていた。
そんな義母の一周忌に、僕の嫁が「お煎餅を供えたい」と言い出した。
「ママが好きだったの」とも言う。
が、僕は義母が煎餅を食べていた記憶がない。
が、嫁は言う。
「ママは、みどり屋さんでよく買っていたの」
そこで「みどり屋さん」へ行った。
お店は産業会館の裏の近くにあった。
僕は何となく「普通のお店」を想像していた。
が、そのお店の姿を見て驚いた。
小樽の歴史を一手に引き受けたような堂々たる風体ではないか。
そして、中に入ってさらに驚いた。
そこには数十種類の煎餅、おかき、あられがずらりと並んでいた。
特に、壁際には正方形の透明なケースに薄い銀の鉄板の蓋がされた小さな箱がずらりと並んでおり、その中に様々なおかきやあられが入っている。
それは僕が子供の頃に見たことのある、あの昭和の風景そのものだった。
聞くと、創業70年になるという。
僕は酒飲みであるけれど、実はこういったあられ、おかきが大好きである。
が、昨今の大手メーカーが作るこれらのモノは、どれも軽過ぎて歯ごたえがなく、全く食べ応えがない。
なので、僕は常日頃からこれらを「根性なし」と言っており、残念ながらほとんど買うことがない。
が、ここは違う。
どれも根性のありそうなものばかりである。
柿の種だって、大手メーカーの2倍の大きさはある。
しかも、しっかり辛い。
おかき、あられはこうでなくてはならない。
そして、ついに僕の大好物の江戸揚げを見つけた。
昨今、僕が一番嘆いていたのがこの江戸揚げである。
「昔のあの根性のあるやつを食べたい」とずっと思っていた。
もうね、真っ先に買いましたね。
やった!
それは、僕がまさしく長年追い続けていたものそのものだった。
そうそう、そういえばお供えを買いに来たんだった。
興奮している僕をよそに、嫁は冷静にお供えを選んでいた。
そしてその中に、小さな「こけし」のおかきがあった。
大人の小指ほどの細長い醤油味のおかきの先に白い豆がついており、そこに可愛いこけしの顔が描かれている。
そうだ、確かに義母はこれが大好きだった。
僕が遊びに行った時、このおかきはソファーのテーブルによく並んでいた。
そっか、嫁はこれを「お煎餅」と言っていたんだ。
こけしの他に数種類を選び、お供え用の箱に詰めてもらった。
義母の大好きだったみどり屋さんの「お煎餅」。
一周忌にはきっと喜んでくれるだろう。
そして法要が終わったら、またみどり屋さん行って、今度は僕の食う分をしこたま買って来よう。
※先日、義母が幼いころに一緒に遊んでいたという石原慎太郎さんがお亡くなりになられました。またあの頃の小樽が遠のいてしまった気がします。ご冥福をお祈りいたします。
(みょうてん)