今と昔を内包する街、小樽

 どの街にも人々の栄枯が積み重なった、街の歴史がある。

 小樽では、北海道開拓の要となる港町であったことを象徴する小樽運河が有名である。また少し足をのばし旧青山別邸へ向かえば、沢山のニシンが連れてきた海の香りがしそうなほど、当時の空気をそのままにしている。
 ただし様々な観光名所の中でも、北のウォール街と呼ばれたほどの銀行群は、少し様相が異なる。「小樽の街そのもの」であるかのように、小樽の住民に寄り添っている風に、私には見えるのだ。

 私が大学一年生の春、その時はまだ一人暮らしを始めたばかりで、小樽の景観に目を向ける余裕はなかった。銀行街にある旧三井銀行小樽支店に、初めて入ったのはそんな時である。ある講演会がそこで行われ、そのお手伝いをしにいったのだが、内装の荘厳さに驚いた。銀行のカウンターや厳重な金庫がそのままに残っており、目を奪われるものばかりであった。
 しかし私が一番感心したのは、それらの歴史があるモノではない。建造物が活用され、小樽住民が気兼ねなく出入りし、集いの場となり得ることである。

 講演会は小樽の歴史についての内容であったが、それを小樽の歴史の大きな要素である建造物の中で行っていたことに、とても趣を感じた。その後、講演会のお手伝いを通して、小樽の街を散策するようになった。
 すると、元が銀行であった建造物も、今では中身が大きく異なっていた。例えば、旧安田銀行小樽支店の建造物には今は「花ごころ」という飲食店が出店しているし、旧北海道銀行本店には「小樽バイン」というワイナリーが営業している。

 ふと小樽で暮らしていく中で目を向けると、現代の建築とは異なるような、重厚感のある建造物が数多く並んでいる。そして今もなお使われ続けているのである。そこに「歴史ある建造物を保全し、新しい取り組みも受け入れていく」という、小樽の街の懐の深さが垣間見える。
 私を含め小樽に住む人にとっては当たり前のことではあるが、改めて考えるとあまり他にはないものであり、なんだか少し誇らしい。

 これを読んでいるあなたも、小樽を訪れた際は、歴史的建造物が生活の上で街並みの一部となり、機能していることをぜひ感じて欲しい。
 注目してみると、小樽が持つ街の「奥行き」を発見でき、一度通った道がまた新鮮に感じられるはずだ。

(カザミドリ)


※本記事の内容は2019年7月時点の情報に基づいたものです。