忍路海岸

 先日、今は不通となっている旧国道5号線の忍路海岸を見に行ってきた。ご覧の通り中々の絶景である。遠くに桃内の桃岩も見えます。小樽市内に数多現存する木骨石造倉庫の原料である小樽軟石採掘場所として、天狗山の麓共々有名なところだ。

 さて、この忍路海岸は小樽市内で唯一海岸線を走る国道だった。海岸段丘に沿って走る国道だったので、当然の事ながら風化による落石が多発した。それにより桃内トンネル・忍路海岸・忍路トンネルに代わりご存じ全長3.5キロの新忍路トンネルが平成30年(2018年)3月に開通したわけである。

 この忍路海岸の風景は見られなくなってしまったのだが、私は倶知安や余市の帰り、特に冬場の夜間走行は注意して走行していた。悪天候の時は白波が道路にかかることもあり、慎重に運転したことが思い出される。余市の生徒さんが、「だから私は、小樽に行くのに列車を使うのよ」と言ったのを思い出す。

 私はこの海岸を一度だけ歩いたことがある。小学校の低学年の頃だから半世紀以上前の頃、数家族で桃内海岸に海水浴に来たことがあった。当時は蘭島以外の海水浴場も人で溢れていた時代である。一時間ほど遊んだ頃だろうか、誰かが隣の忍路海岸に行こうと言い出した。言いだしっぺはもちろんわからないが、子どもが言うわけもなく・・・。枕詞に「すぐだから」が付いていたと思う。

 そして広げた道具を簡単に養生し、歩いて桃内トンネルを抜け、忍路トンネル手前の忍路海岸まで約2キロを蟻の行列よろしくゾロゾロゾロゾロ歩いたのだ。

 子どもたちは水着のまま膨らませた浮き輪を身体を通して両手で抱え、安物のビーチサンダルを引きずりながらの・・・。最初はよかったのだが、暑さと意外に遠い忍路海岸に口数も少なく、行き交う車両を注意しながらの移動だった。目的の忍路海岸に到着しても、疲れが大きく楽しく海水浴という思い出はない。

 時は流れ、高校生の時にも忍路海岸を訪れている。その時は、友人数人と蘭島に海水浴に来ていた。この山越えたら忍路だぞと、これまただれかが言い出した。よし、行くか。全員一致でブドウ畑の中、山越えを敢行し忍路海岸で遊んだという記憶がある。こちらは、夏の暑い日だったが、日陰もある山道を楽しみながらの移動だった。この坂が観音坂という名前が付いているのを知るのは、それからずっとずっと後の事である。

 それ以来、忍路海岸を通る事は数えきれないほどあったのだが、海岸に下りる事は無かった。そして、その忍路海岸を通ることができなくなってしまった。

(斎藤仁)


※本記事の内容は2019年4月時点の情報に基づいたものです。