恋の始まり
小樽は猫がとても多い町だと感じる。運河や駅の近くで猫を見たことは流石にないが、家の近くを歩いていると必ずといっていいほど猫に出会う。それほど猫は小樽の日常に溶け込んでいて、むしろ会わない日の方が少ないくらいだ。しかも、小樽の猫は綺麗で、飼い猫か野良猫か全くわからない。そんな小樽は、猫が好きな人にはたまらないまちだと思う。
いつも通り、地獄坂を下って学校からお家に帰ってきたときに1匹の、白黒のまだら模様をした猫を家の前で見つけた。どこかの家の飼い猫だろうか。とても毛並みが揃っていて綺麗なのでそう思った。その猫は私のことなど何も気にしていない様子だったので、近づけるところまで近づいてみた。
しかし、どれほど近づいても一向に逃げるそぶりを見せない。それどころか私の方をちっとも見ずにそっぽを向いている。小樽の猫はこんなにも警戒心がゆるいのだろうか!?それとも、自分は猫にも気づかれないほど存在感がないのだろうか。少しぐらい構って欲しかったので、そーっと、さらに猫の近くまで行ってみる。
本当に全くと言っていいほど気づかれない。むしろどこを見ているのか気になって仕方がなかった。猫の頭が向いている方向を見ても何もないように見えた。
一歩後ろに下がって、角度を変えて、白黒模様の猫が見ている方を見てみた。するとそこには真っ黒な猫がいた。雪山に隠れて見えなかったのだ。いくら近づいても私のことに気づかないわけである。
2匹の猫は見つめあっていた。完全に私はお邪魔ものだった。危うく、近づきすぎて2人の仲を引き裂こうとしているところだったと思うと、なんだか申し訳ない気持ちになった。だが、猫たちははそんな私の心情など気にするわけがないし、わかるわけもない。お互いに夢中で、2匹だけの世界に潜り込んでいた。
私のことなんて気にする余裕などなさそうなので、空気を読んで、私はこっそり自分のお家の中に入って行った。小樽の猫はロマンチックである。
(和太郎)