小樽運河の魔法
私は、高校を卒業した3月に、卒業旅行と称して仲の良い友人と小樽観光をした。札幌からJRに40分ほど揺られ、南小樽駅で下車した。
初めてのJRに、初めての銭函の海に、初めての友達との旅行に浮かれ、とても興奮していた記憶がある。観光客向けのお店が並ぶメルヘン通りを歩きながら、たくさんのガラス店を覗き、海鮮丼を食べ、友達と観光を楽しんだ。
南小樽駅から歩いて行くと、メルヘン通りを抜けて少し歩いたところに小樽運河はある。昼食も食後のデザートも食べ、一通りの観光も落ち着いた頃に私たちは小樽運河にたどり着いた。
「朝から歩きっぱなしで笑いっぱなしで疲れたね」、なんて言いながら運河沿いのベンチに座ってひと休みした。いや、しようとした。座ろうと視線を下げた時、運河が目に入ったのだ。
私たちは、引き寄せられるように運河に近づいた。さっきまで降っていた雪が止み、急に差してきた太陽の光が水面に反射した。運河に架かる橋から身を乗り出せば、水に手が届きそうに思えた。冬の冷やっとした風が吹いて、思わず身震いした。
みんなで運河を眺めていると、なんだか急に寂しくなった。とても綺麗な場所なのに、たくさんの人がいるのに、澄んだ青い空なのに。
とても懐かしい気持ちになって、家に帰ってきたようなホッとした気持ちになって、でもそれと同時にとても寂しくて。
橋の上で、たくさんの話をした。高校3年間の楽しかった話、つらかった話、大学受験の話、新しい友達ができるか不安な話。運河を見ていると、言葉がするすると出てきた。「あなたたちと一緒だから、3年間楽しかったよ」なんて、らしくもないことも言ってしまった。
波一つない穏やかな小樽運河は、私たちを素直にしてしまうらしい。いや、小樽自体がそうしたのだろうか。風はとても冷たかったのに、心が温かくなった。
たまには、こんなセンチメンタルな気持ちになるのも悪くはないと思った。
(波流)