身近な心

 小樽の大学に通いだしたからといって、さほど小樽のことに詳しくなれるわけではない。むしろ大学は小樽の中心地から若干離れているし、家が遠いからとさっさと帰ってしまうことの方が多い。
 かくいう私も小樽商科大学への入学前は、小樽に通ったら小樽観光もしやすくなるなぁ、などと思っていたが、いざ入学してみると、タイミングよく駅に到着する快速列車に乗り、まっすぐ家に帰る日々を送っていた。

 そんなある日、私は派遣のバイトで二日間ほど小樽の家電量販売店でイベントの仕事をすることになった。店の入り口に立ち、出入りするお客様に挨拶をしながらイベントの宣伝をし、子どもにはキャラクターのサンバイザーを配る簡単なお仕事だ。
 入り口に立つため来店するすべてのお客様に挨拶をするわけだが、そこでふと来店するほとんどの方が、いらっしゃいませ、と挨拶をする私に軽く会釈で返してくれる事に気付いた。
 普通のことかもしれない。些細なことかもしれない。しかし、他の店舗でも何度かこの仕事をした私にとっては、小樽の人々が一番、店員への接し方が優しかったように感じた。
 商品の場所を聞かれたものの派遣だったためわからず他の店員を呼んだ際、そのお客様が帰り際に私にも「ありがとね!」と言ってくれた時は、「私、商品の場所がわからなくて他の店員さん呼んだだけなのに…」と逆に申し訳なくなるぐらいだった。

 小樽の人は優しいな、とはっきり感じたのはこの時だったが、思えば以前にも大学内で食堂に来ていた地元の方が「俺たちここの卒業生なんだよ!」とフレンドリーに話しかけてくれたことがあった。昔はバスなんかなかったんだ、などと当時の様子を話してくれた。
 他にもふらっと入った小さな喫茶店のメニューの写真を見て「猫がいっぱいいる!」と呟いたら店主の方が「それはベネツィアの写真でね、全部野良猫なんだよ」と、ベネツィアの話をしてくれたりした。

 決して他の町の人たちが冷たいとかそう言うわけではないのだが、それでも小樽の人々は特別人と人との距離が近く暖かい町に思える。本当に些細なことばかりだが、その些細で当たり前のようなことすら滅多にできなくなった現代において、小樽の地元の人々とのちょっとしたふれあいはなんだか嬉しいものだった。
 小樽に来た際は有名な観光地だけでなく、小さな食堂や自営業の店など、地元の人と触れ合いやすい場所へ行ってみると良いかもしれない。

(O2)